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10話:お嬢様の背中を流すだけの簡単なお仕事です

 五日目の夜。


 この日は、さらに過酷な試練が待っていた。


「翔真」


「はい」


「今日、お風呂の時間、一緒に入りなさい」


「……は?」


 俺は、自分の耳を疑った。


 お風呂。一緒に。


 それは——


「冗談、ですよね?」


「冗談じゃないわ」


 睡蓮さんが、真顔で言った。


「最近、お風呂に入ると体が冷えて眠れなくなるの。誰かと一緒に入ると、体温が下がりにくくて——」


「それでも、さすがに——」


「背中を流しなさい。それだけでいいから」


 睡蓮さんの目が、俺を見つめている。


 ——逆らえない。


「……わかりました」


 俺は、また頷いてしまった。


---


 夜八時。


 俺は、浴室の前で待機していた。


 心臓がうるさい。

 手のひらが汗ばんでいる。


 (落ち着け。背中を流すだけだ。それだけだ)


 (俺は使用人だ。使用人としての仕事をこなすだけだ)


 (何も感じるな。何も考えるな)


「入っていいわよ」


 中から、睡蓮さんの声がした。


 俺は、深呼吸をして、浴室のドアを開けた。


 ——息が止まった。


 睡蓮さんが、バスタオル一枚で風呂椅子に座っていた。


 湯気に包まれた白い肌。

 濡れた黒髪が、肩に張り付いている。

 バスタオルは胸元を隠しているが、背中は——丸出しだ。


 細い肩。滑らかな背中。くびれた腰。


 そして、背中のラインが下に向かうにつれ、その先に——


 バスタオルは胸の前で締めているだけ。お尻は——ほぼ見えている。


 形のいい、ふっくらとした丸み。


 その曲線が、湯気の中でめくるように浮かび上がっている。


 (見るな! 見るな! 見るな!)


 俺は、視線の置き場に困った。


 しかも——横から見ると、バスタオルの隙間から胸の膨らみの横側が見えている。


 ふっくらと横に張り出した曲線。その境界のラインが——


 (見るなって言ってるだろ俺!)


「何ボーッとしてるの。早く」


「し、失礼します」


 俺は、スポンジを手に取った。


 ボディソープを泡立てて、睡蓮さんの背中に——触れた。


 柔らかい。


 想像以上に、柔らかい。


 滑らかな肌が、スポンジ越しに伝わってくる。

 泡が彼女の肌の上を滑っていく。


 ああ、これがスポンジじゃなくて素手だったら——


 (考えるな!!)


「んっ……」


 睡蓮さんが、小さく声を漏らした。


「すみません。痛かったですか?」


「ううん。くすぐったいだけ」


 俺は、できるだけ事務的に背中を洗った。


 でも——


 睡蓮さんの肌は、滑らかで、温かくて、いい匂いがして——


 (考えるな!)


 俺は必死で意識を逸らした。


「もっと強くていいわ」


「は、はい」


「肩も」


「わかりました」


「首の後ろも」


「……はい」


 睡蓮さんの指示に従って、俺は彼女の体を洗い続けた。


 肩。首。腰。


 どこに触れても、柔らかくて、滑らかで——


「ねえ、翔真」


「はい」


「腰もお願い」


 俺は、睡蓮さんの腰に手を伸ばした。


 くびれたウエスト。引き締まったお腹。

 その上には、バスタオルで隠された胸。


 横から見ると、その膨らみが——


 (見るな!)


「もう少し下も」


「えっ!?」


「腰の下の方も、って意味よ。変なこと考えた?」


「考えてません!」


「ふふ、嘘つき」


 睡蓮さんがくすくす笑った。


 俺は、必死で腰の周辺を洗った。


 バスタオルの下には——何もない。

 そのことを意識してしまうと、頭がおかしくなりそうだ。


「ねえ、翔真」


「はい」


「気持ちいい」


 ——っ!


 俺の心臓が、爆発しそうになった。


「そ、それは——良かったです」


「ふふ。緊張してる?」


「してません」


「嘘。手が震えてるわ」


 バレている。


 俺は、必死で平静を装った。


「仕事ですから」


「ふうん」


 睡蓮さんが、振り返った。


 バスタオルがずれて——胸元が——


 俺は慌てて視線を逸らした。


「やっぱり、緊張してる」


「し、してません!」


「顔、真っ赤よ?」


「お湯のせいです」


「嘘ばっかり」


 睡蓮さんが、くすくすと笑った。


 ——からかわれている。


 絶対に、からかわれている。


「もういいわ。出て」


「失礼します」


 俺は、逃げるように浴室を出た。


 脱衣所で、頭から冷水をかぶった。


 でも、心臓は全然落ち着かなかった。


 そして——下半身の反応も、全然収まらなかった。


 このままじゃ、部屋に戻れない。


 俺は五分間、冷水シャワーを浴び続けた。


 睡蓮さんの裸の背中。滑らかな肌。横から見えた胸の膨らみ。


 全てが、頭から離れなかった。

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