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き:君の覚悟と彼女の依存と僕の決断

 真綿で首を絞められる、って言うのかな。

 一つ一つの攻撃に威力はないけど、確実に急所には当たってる感じ。

 信頼してたのにな。

 言ってくれたら良かったのにな。

 言ってくれさえいたら……結果は違ってた筈なんだ。




 君と結んだ不可侵条約。

 絶対に、内緒にはしない。

 もしも好きになったら……速やかに相手に申告する。

 もしも闘うのなら、堂々と。

 だって、君と彼女と僕は、運命共同体なんだから。




 親を亡くした孤児達の住まう施設で、君と彼女と僕は育った。

 沢山の子供達の中、性別なんか気にもならない程、僕達三人は対等に仲良しだった。と言うか、何故か僕達三人はみんな、他の二人だけが特別だと感じてた。三人とも、お互いに唯一無二の存在だと感じてた。

 大事な物も好きな物も、いつでも三人で分け合った。君も彼女も僕も、自分より先に相手がどう思うかを考え、相手が喜ぶ事を優先した。

 別に意識しなくても、そう。君も彼女も僕も、他の二人が何より大事だったから。

 三つ子なのかもね、って思う位に僕達は似てたね。




 僕達は一緒に成長した。同じ事に笑い、同じ物を集め、同じ食べ物に夢中だった。

 それが、いつからだろう。

 君と僕はする対等な喧嘩を、彼女とはしなくなった。いつしか彼女は中立の立場に位置し、どこかお姉さんの様に僕達を見てる様だった。

 男と女の違い。多分そうなんだろう。それでも僕は彼女を「家族」以上には思わなくて、彼女への好きは君に対する好きと何ら変わらなくて。

 君も僕と同じだと笑って。

 だから、笑いながら二人で結んだんだ。彼女に対する不可侵条約。

 まさかそんな気持ちにはならないけどね。僕は笑ってそう言った。

 絶対そんな気持ちにはならないだろうな。君も笑ってそう言った。

 そう信じて、疑わなかった。




 言ってくれてたら良かったのに。

 君が彼女を好きになっても、別に僕達三人の関係がおかしく歪むなんて考えにくい。だって僕の彼女への好きは昔と変わらないから、君が彼女を好きな事を素直に応援出来る。二人が僕から離れた所に行ったりしなければ、僕は君と彼女が恋人の関係になっても三人の関係は変わらないと思ってるから。

 僕は、そう考えてた。上手くやっていけるって。信頼し合った三人だから、例え恋愛感情が入っても基本的な基盤は崩れないって。

 だけどそれって、僕が勝手に思う理想論なだけだったのかな。現実的な考えと程遠かったのかな。僕が、そう信じたかっただけ、なのかな。

 少なくとも、君と彼女はそうは考えてなかったって事なのかな……。




 君が彼女を「好き」で、彼女も君を「好き」なんだって、いよいよ鈍い僕でも気付いてしまった。

 だけど、君は僕に彼女が好きだと言ってくれなかった。

 ――破られた不可侵条約。

 僕は邪魔をしないのに。

 僕は反対する気もないのに。

 僕は嫌な気分になんかならないのに。

 僕はそれでも三人で生きていきたいのに。

 僕は――ただ君の一言を待ってたのに。




 君は、三人のこの関係が崩れると思ったんだね。

 もしかして、僕も彼女が好きだと勘違いしたのかも知れない。

 仲がこじれて、修復出来ないものになると危惧したのかも知れないね。

 君は僕に言ってくれなかった。

 彼女も僕に教えてくれなかった。

 それどころか、二人で僕の前から去ろうと計画してた。

 僕に内緒のまま。

 僕を置き去りに。




 それは僕に対する酷い裏切りだと、二人の内どっちかが気付かなかったんだろうか。

 何も僕に知らせてくれないまま。

 突然一人に残された僕がどんな心の痛手を負うか、それを二人は考えられなかったんだろうか。

 あんなに信頼し合って生きてきたのに。

 真綿どころか、最早攻撃は口径5.6ミリのライフルで至近距離から腹を撃ち抜く位に僕にはきつく感じられた。

 ……あの子にはバレてないの?

 ……大丈夫だ、あいつは鈍いから。

 やめて、そんなやり取り……せめて部屋の外でして。僕が眠ってるとでも思ってるの?

 どこまで、僕を――……




 もう、僕の事なんて要らないんだね。

 君も。

 彼女も。

 僕に対する愛情や配慮なんて、もうないんだね。

 変わってしまったんだね。

 僕だけが、変わらないと……変わりたくないと……しがみついてるだけなんだね……。




 どうして言ってくれなかったんだい?

 尋ねると、君は目を伏せた。

 君からの言葉が欲しくて、君の真意を知りたくて、僕は何度もそれを繰り返した。

 君の目から、涙が落ちた。言葉はとうとうこぼれなかった。

 僕に、もう待つ余裕はなかった。

 ――言ってくれなかった事への怒り。信頼を踏みにじられた哀しみ。ないがしろにされた事への恨み。

 言って欲しかったよ。そんな僕の言葉に目を上げた君の喉を、僕はナイフで切り裂いた。




 どうして言ってくれなかったんだい?

 尋ねると、彼女はその場に泣き崩れた。

 ごめんなさい……。

 彼女は何度もそれだけを繰り返した。

 何に対して謝るの? 僕は優しく彼女に尋ねた。

 首を振って、それには彼女は答えなかった。また繰り返される「ごめんなさい」。

 何に? 僕が聞きたいのはそこだ。そこなのに。

 ごめんなさいだけじゃ分からない。だから、僕はしゃがんで、何に対して謝るの? の問いを彼女に繰り返した。

 彼女が嗚咽の合い間に囁いた。「ゆる、して……」

 もう、僕は理性を保てなかった。

 ――聞きたい事の答えももらえない。謝ってなんか欲しくない。僕はただ君達の思いを知りたいだけなのに。

 好き合っていたのを僕に黙っていた事。僕を置いて行こうとしてた事。彼女の口から、その言い訳を聞きたいだけなのに。

 僕は手を振り上げて、彼女の左胸に、体重を乗せてナイフを刺し込んだ。




 どうして、言ってもらえなかったんだろう?

 僕は自分に問い掛ける。

 ずるずると、彼女の両腕を掴んで引きずり歩きながら。

 もしかして――僕は君に尋ねてみたら良かったのかな。

 彼女の事好きなのかい? って。

 彼女に尋ねてみたら良かったのかな。

 君の事好きなのかい? って。

 僕が気付いてると知ったら、二人の反応は違ってたかも知れないなあ……。ああ、違ってたかもなあ……。

 どさり、と彼女の体を君の横に置いて、僕は何だか放心してしまった。

 聞けば、良かったのかなあ……僕の方から。

 それか、言えば良かったのかも。もし君達が付き合ってても、僕は君達と変わらず一緒にいたいよ。これからもずっと。三人でさ。きっと仲良く続けていける。僕達の絆はだてじゃないんだからさ。

 伝えれば良かった。自分のその思いを。精一杯の僕の本心を。

 そしたら、二人は付き合ってる事を誤魔化してでも、僕の側にいてくれてたかも知れない。僕を欺きながらでも。そんな嘘なら大歓迎だったのに。

 いや……そんな都合良くは、きっと物事は運ばないだろう。それでも君達は僕を置いて出て行ってしまってたかも知れないしね。

 どんな結末だろうと、君にも彼女にも僕にも、誰にとっても後悔と哀しみしかもたらさなかったのかな……。

 ……ねえ。だけどさ。

 次の世でも、また君達に逢えるかな。

 僕はまた二人と一緒に生きたいよ。

 何よりも大切な君達と。

 何度生まれ変わっても。

 かけがえのない、君と、彼女と、僕と。

 僕達は、ずっと一緒なんだから。

 ねえ。

 また逢えるよね……




 君の喉を裂いたのと同じ形に、僕の手が握ったナイフは僕の喉を裂き、僕の体は君と彼女の折り重なる更にその上に倒れて行った。




 ねえ……。

 次の世でも、また君達に逢えるよね…………

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