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分岐点にて  作者: 星野☆明美、chatGPT
9/21

8

ざしゅ。

千鳥の左手を、影の足が踏んだ。

「あうっ」

ぎりぎりと踏みにじられる。

影は千鳥のあごにこぶしを当てて顔を上へ押し上げた。

「お前もか」

薄くわらう。


怖い!

千鳥は息ができない。


「千鳥ー!」優也の叫び声が遠かった。

影は、バタフライナイフを振り上げて、千鳥を刺そうとした。


ああ、だめだ……

千鳥の意識が遠のく。


刃が振り下ろされる、その瞬間。


――ぎゅ、と胸の奥が焼けるように熱くなった。


(……あ、これ)


千鳥の視界が白く反転する。

影の顔が、ナイフが、すべてが滲んで伸びて、

世界が一拍、遅れた。


「ちど――」


優也の声が、途中で途切れた。


次の瞬間、

千鳥の身体は地面に叩きつけられなかった。


冷たい風。

耳鳴り。

重力の感覚が、ない。


――ここ、どこ?


息ができる。

左手の痛みは、ある。

でも、さっきまで踏みつけられていた感触は消えている。


「……転、移?」


声に出した瞬間、

足元の風景がはっきりした。


見知らぬ路地。

夜。

遠くでサイレン。


千鳥は震える指で、自分の胸を押さえた。


(……ギリギリだった)


そして、遅れて気づく。


――優也は?


千鳥は歯を食いしばった。


(逃げたんじゃない。

 置いてきたんだ)


影の薄笑いが、脳裏に焼き付いて離れない。


「……戻る」


誰に言うでもなく、千鳥は呟いた。

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