7
優也の手が、突然、千鳥の肩を強く押した。
「……っ!」
踏ん張る間もなく、千鳥はよろけて後ろに倒れた。
背中がアスファルトに打ちつけられ、息が詰まる。
「なに……やって……」
見上げた視界の先で、優也が膝をついていた。
苦しそうに、けれど必死に――千鳥から距離を取るように。
「来るな……!」
叫び声は、もう怒鳴り声に近かった。
「俺のそばにいるな……!」
千鳥は、その言葉に違和感を覚えた。
逃げろ、じゃない。
助けてくれ、でもない。
――来るな?
その瞬間だった。
空気が、ひやりと冷える。
背後。
ほんの一瞬、何かが動いた。
千鳥の視界の端を、影が横切る。
優也ではない。
確実に――自分の方へ。
(……あ)
胸の奥が、ひらりと熱を持った。
千鳥は、ようやく理解した。
優也が突き飛ばしたのは、
自分を守るためじゃない。
狙いを、私から外すためでもない。
――私が、狙われる位置に立たないためだ。
心臓が早鐘を打つ。
地面に倒れたまま、千鳥は息を呑む。
ここに立ち続けるという選択は、
優也だけでなく、
自分の命も差し出すことなのだと。
胸の奥の光が、確かに脈打った。
でも――
まだ、飛ばない。
千鳥は歯を食いしばり、立ち上がろうとした。




