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「来るぞ!」
係官の優也と、黒い男の声が、ほぼ同時に重なった。
次の瞬間だった。
空気が――裂けた。
風でも衝撃でもない。音だけが、遅れて追いついてくる。
金属が擦れるような、低く不快な振動。
研究所から来た優也が、思わず一歩下がる。
ポケットの中で、何かが強く震えた。
「……追尾、完全に捕捉された」
黒い男が舌打ちする。
「早いな。想定より一拍、早い」
千鳥は、ぞくりと背筋が冷えるのを感じた。
理由はわからない。ただ――
見られている。
視線ではない。
存在そのものを、数値として、現象として、捉えられている感覚。
「千鳥!」
係官の優也が叫ぶ。
「今は跳ぶな! まだ――」
だが、もう遅かった。
世界の端で、影が立ち上がる。
人の形をしているのに、輪郭が定まらない。
その中心で、誰かが笑った。
「……見つけた」
低く、歪んだ声。
「やっぱりだ。
お前たちが集まると、世界線はこんなにわかりやすい」
中谷圭司だった。




