プロローグ
隕石が落ちてくる!
海野千鳥は絶叫をあげた。空が裂けるような音。いや、音というより、世界そのものの警告のような振動が全身を震わせる。
昼間の商店街は、一瞬で騒然となった。逃げ惑う人々。泣き叫ぶ子ども。誰かの落とした買い物袋が転がり、オレンジが道路に散らばった。
千鳥の視界の中心――そこにあったのは、燃えながら回転する巨大な岩。
「うそ……ニュースとか映画の話じゃなくて?」
ありえない。でも、その“ありえなさ”が現実を押し潰してくる。
千鳥は足がすくんだ。逃げたいのに、動けない。悲鳴を上げる喉は震えて、まともな息すら吸えなくなる。
ああ――ここで終わる?
そう思った瞬間だった。
空気の色が変わった。世界が、まるごと色を失った。
周囲の音が遠ざかっていく。まるで、水の中に沈んでいくように。
誰かの叫び声が残響のように尾を引き、やがて消えた。隕石は目の前にあるのに、動きが遅い。煙も火も――まるで絵の具を水に落としたようにぼやけていく。
千鳥の心臓が脈打った。痛いほど強く。
その瞬間、胸の奥で何かがひらりと光った。
「……え?」
世界が、裏返る。
目の前にあった空が砕け散り、道路が波紋となって揺れ、千鳥の身体はどこかへ引っ張られるように沈んでいく。
千鳥は、声も出せないまま引きずり込まれた。
光。闇。音。記憶。すべてが渦を巻き――
そして。
千鳥は突然、地面の上に立っていた。
太陽の角度が違う。先ほどまで聞こえていた悲鳴もない。商店街は穏やかな昼下がりの空気を取り戻し、人々はのんびり行き交っている。
隕石も、煙も、恐怖も――どこにもない。
「……ここ、どこ?」
いいえ。
正しい問いはこうだった。
「ここはどの世界?」




