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一滴の雫になって世界に落ちて行く祈り

作者: 有未

 なんだ、夢だったんだ。そう思う瞬間を、心のどこかで探しているのかもしれないけれど。でも、私はここに帰って、ここから出掛けて行く。現実。


 なんだ、こんなにさびしい人生だったんだ。そう思う瞬間に、いままでに集めて来た宝物が色を失って行く。なにもないわけがなのに。泣きたいほどの祈りのようなものを抱えて、ずっとここまで歩いて来たのに。


 そっか、ここまでなんだねって。いつかの日に思う時が来る。その時に、自分の人生を振り返った時に、ああ、なんて愛しいのだろうと思えるだろうか。小さな部屋で古いパソコンに向かい、小説家になる夢を追い掛けた日々。大好きな紅茶を淹れて飲んで。会いたい人に手紙を書いて。もう会えなくなった人を想って。私も誰も時間ごと未来に向かって行く。二度と、戻れない。


 足元から咲いたさびしさの花が根を張って、想いの深さの分だけ動けなくなる。いつしか見えなくなっていた青い希望の花に、涙と共に邂逅する。朝と夜。晴れと雨。眠り。その繰り返し。


 もしも、全部が夢だったら。こうして台所でインスタントコーヒーを淹れていることも。新発売のゲームを買って楽しく冒険していることも。懐郷の歌を繰り返し繰り返し聴くことも。小説家の夢を追い掛けることも。もう会えない人がいることも。ああ、そうか、夢だったんだと。私は長い夢をひとりでみていたんだねって。本当の私は懐かしい家にずっといたんだねと。そんな日が、もしも来るのなら。


 もう一度だけ。ここから。その想いを繰り返して、私は未来へ向かっている。叶わない夢を夢にみるけれど。泣いても。長く眠っても。また私は明日に向かって歩いて行く。長い旅を続けて行く。


 誰しもが夢をみている。青空の下で。私は、そう祈っている。

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