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ガストン=ガルニエ

 ガルニエ家は、代々武を重んじる家柄である。将軍職を務めたり、武功を立てたり英雄と呼ばれた者を過去幾人も輩出してきた。

 ガストンはその様な先祖に憧れ、自分もいつか歴史に名を残すような人物になりたいと子供の頃から思っていた。幸い、ガストンは才能に恵まれていた。幼い頃から同年代の者より身体は大きく、力も強かった。5歳上の兄がいたが、小さい体格に臆病であったため、ガルニエ家はいずれ自分が継ぐものとガストンは信じて疑わなかった。実際、7歳の時に12歳の兄を打ち負かした程だった。

 しかし11歳の時、ガストンは当主の祖父から「お前にガルニエ家を継がせる気はない」と言われてしまう。抗議するも、祖父は勿論、父も同意見だった。しかも、父の後は弱い兄に継がせるという。

 当然受け入れられるものではなかった。言葉で言っても無理ならと、ガストンは兄を倒して自分の強さを証明しようとした。

 試合は、ガストンの負けだった。それもあっさりと負けてしまった。何が起きたのか理解出来ず、負けを認めようとしないガストンは再試合を訴えるが、聞き入れられることはなかった。さらに「好きに生きて良い」と言い捨てられてしまった。言葉だけ聞けば良いように捉えられるが、ガストンにそれを告げた祖父の目はとても冷たいものだった。

 家族から見捨てられ悲嘆に暮れていたガストンを救ったのが、友人であるジャンヴィールであった。それ以来、ジャンヴィールの誘いを受けたガストンは、護衛として側近となった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「へぇ~。お2人の関係って。そんな始まりだったのですね」


 放課後の生徒会室、リュドヴィック以外の役員が集まっていた。母のシルヴェーヌ第一妃に呼び出されて以降、ジャンヴィールは自身の地盤を固めるため、校内を歩いて生徒達との交流を深めようとしていた。それぞれタイプは違うが、役員は皆美形である。結果、全員で行動することで注目を浴び話題となっていた。特に下位貴族からは、ジャンヴィール達とお近づきになれるかもと騒がれていた。


「それにしても、リュドヴィック様の遅刻癖はどうにかならないのですか?」

「まぁまぁ。リュドヴィック様の遅刻のおかげで、ジャンヴィール様とガストン様のお話が聞けたじゃないですか」

「それはそうですけど・・・」


 怒るリリアーナをイヴァンが窘める。初めの頃少し遠慮がちであったイヴァンだが、毎日会うことで皆と打ち解けるようになった。真面目なリリアーナは、時間や決まり事を守ろうとしないリュドヴィックと相性が悪く文句を言うが、それを宥めるのはイヴァンの役目となっていた。


「でもッ、ジャンヴィール様をお待たせするなんて、やっぱり許せません」

「リュドヴィックにも付き合いというものがあるから。それに、私は放課後と言っただけで、時間までは決めてないからな」

「ジャンヴィール様がそんな風に優しいから、リュドヴィック様は調子に乗って、いい加減なままなんです」

「確かにだらしのないところはあるが、私もガストンもリュドヴィックを信頼している」

「付き合いが長いですからね。まぁ、リリアーナが怒る気持ちはわかるが、アイツほど頼れる奴はいない。アイツは本当の天才だからな」

「そうなんですか?全然そんな風に見えませんけど」

「リリアーナ、失礼ですよ」

「あっ、私ったら!申し訳ありません。口が過ぎました」


 再びイヴァンに窘められたリリアーナが慌てて取り繕うも、リリアーナの無礼がなかったことを表すように、部屋は笑い声に包まれた。

 生徒会室ではジャンヴィールの意向で、身分差をなくした交流が成されている。そのため、リリアーナは時折、本音を漏らしてしまうことがあった。第五位が第一位を非難するなどあってはならないことだが、ジャンヴィールが平等を望んでいるため許されていた。もっとも、ジャンヴィールとレジスは、好きな子がコロコロと表情を変える様に見惚れているというのが実情であった。


「なんだい?随分と賑やかじゃないか」


 タイミングを計ったかのように、リュドヴィックが現れた。リュドヴィックを見るや否や、リリアーナは詰め寄った。


「もう!リュドヴィック様が遅刻したせいで、恥を掻いてしまったじゃないですか」

「よくわからないが、それは失礼なことをした。だが仕方がないのだよ。令嬢達が私を離してくれなくてね。その手を振りほどいて泣かせるような真似、私にどうして出来よう。

 わかってくれるかい?」

「何でいつも、そう適当なことばかり言うんですか」

「嘘なんかじゃないさ。皆私を慕ってくれているんだ。私は1人しかいないというのに。

 リリアーナ、私はどうしたら良い?」

「また私をからかって!どうしていつもそんななんですかッ!?」

「2人ともそのくらいに。全員揃ったことだし、見回りに行こうか」


 ジャンヴィールの言葉で、リリアーナは不満を露わにしながらも口を閉じて1歩下がる。

 リュドヴィックが「助かった」と目配せをしてきたので笑って返すが、2人がじゃれ合っているように見え、引き剥がしたかったというのがジャンヴィールの本心であった。今のところリュドヴィックにその気がないのは知っているが、先程の姿を見せられるとどうしても不安を覚えてしまった。レジスがリリアーナに心奪われた例もある。何よりリュドヴィックは女性の扱いに長けている。リリアーナがリュドヴィックを好きになってしまう恐れは十分ある。

 王子が第五位と恋仲になるなど普通あり得ない。それ故誰にも相談できず、どうすればリリアーナに振り向いてもらえるかとジャンヴィールは日々悩んでいた。これ以上恋敵が増えないようにと祈りながら。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 生徒会役員による校舎内の見回りは、毎回多くの生徒を集めていた。

 多くの生徒と接する機会を増やし、支持を得ることが目的である。身分に囚われず優秀な者が活躍できる社会を作ることは、革新的なもので反対する者は少なくない。それは特に年寄りが多く、彼らは変化を望まない。逆を言えば、若い者ほどジャンヴィールの考えに賛成する者は多い。ジャンヴィール達は、そういった者達を取り込むことで地盤を固めようと考え、その手始めとして校内の見回りを始めた。


「やっぱりジャンヴィール様って凄いね。毎回みんな目を輝かせて、やって来るのを待ってるんだもの」

「リリアーナ、言葉遣いが変ですよ」

「あっ!ごめんなさい」


 最近、リリアーナが生徒会室以外でも、役員に対して馴れ馴れしい言葉遣いをするようになってきていた。ジャンヴィールが許しているとは言え、本来どこであろうとも、その様なことが許されることではない。今のところ他の生徒達に気づかれている様子はないが、リリアーナの緊張感のなさや甘えに、イヴァンは頭が痛い思いだった。


(優秀さと礼儀は別だと思うのだが?ジャンヴィール様はどう考えているのだろう)


 ジャンヴィール達がリリアーナに甘い分、リリアーナの失態を諫めるのは同級生のイヴァンの役目であった。同じことを何回も注意し続けているにも関わらず全く直そうとしないリリアーナに、ジャンヴィール達の手前顔には出さないが、イヴァンは辟易していた。


(まったく。役目とは言え、何で私がこんな事まで)


 胸の内で愚痴をこぼしつつも、家の為にイヴァンは自分の役目全うすべく、リリアーナに話しかけた。


「リリアーナ。先程のガストン様のお話ですけど、どうして当主から疎まれたのでしょうね?ガストン様は学園で一番強いではないですか。武を尊ぶガルニエ家なら、ガストン様ほどの強者を褒めると思うのです」

「そう言えば。何ででしょう?

 ガストン様、ガストン様。先程聞かせていただいたお話なんですが、ガストン様ってとても強いですよね。なのに、どうして不当な扱いを受けたのですか?だって、お兄様より強かったのですよね。普通だったら、ガストン様を当主に選ぶはずですよね?」


 つい先程注意したはずなのに、リリアーナの態度が礼儀を欠いたままだった。イヴァンは苛立ちを覚えるも、役目の為と平静を装う。よく見ればイヴァンの目が笑っていないことに気づけたが、リリアーナは悪い意味で素直な人間であった。


「先程の話か。

 そうだな・・・。正直、爺様や父の考えは未だにわからん。だが、武闘大会で三連続優秀を成し遂げれば、きっと認めてくれるだろう」

「それって、凄いことなんですよね?」

「ああ。今まで誰も成し遂げていない。兄でさえな」

「そうなんですね。頑張ってください。応援してます」

「ありがとう」

「それはどうかな?」

「なんだ、今年はリュドヴィック(お前)も出るつもりか?良いだろう。そうでなければ、成し遂げたとは言えないからな」

「何言ってるんですか。リュドヴィック様がガストン様に敵うはずないじゃないですか」


 リリアーナの言葉に、ガストンとリュドヴィックが顔を見合わせ笑みを浮かべる。その反応が気になったリリアーナは頬を膨らませ、2人に詰め寄る。


(流石にその顔はマズいでしょう。何で先輩達は平気なんだ?)


 周りの反応が気になるイヴァンは気が気でなかった。実際、リリアーナの姿を見て顔を顰める令嬢もいる。フォローしきれない状況に、イヴァンは感情を殺し、考えることを止めた。

 そんなイヴァンの心情や周りの目を余所に、リリアーナ達は話し続ける。


「何ですか、今の。私変なこと言いました?」

「リリアーナ、リュドヴィックは私の護衛なんだ。強くて当然だよ」

「そうなんですか?信じられません。どう見ても、ガストン様の方が強そうじゃないですか」

「私もリュドヴィックが戦っているところは見たことがないが、そうなのか?」

「ほらっ。レジス様もそう思ってるじゃないですか。それなりに強いのかもしれませんけど、不真面目なリュドヴィック様が、いつも鍛えてるガストン様に敵うとは思えません」

「フッ。それなら今年は大会に参加して、リリアーナの驚く顔を見てみることにしようか」

「2人の戦いが見られるとは。今年の武闘大会は昨年以上に盛り上がりそうだな」

「あら。ジャンヴィール様ではないですか」


 突然声をかけられ、これまで和気藹々とした雰囲気は霧散し、緊張感を孕んだものに変わる。

 ジャンヴィール達の行く先に、ローレットが取り巻きを連れて立ち塞がっていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「何ですか、義姉上。用がなければ退いてください。仕事の邪魔です」

「あら?ジャンヴィール様にご挨拶しただけではないですか。私の立場で、無視する方が失礼ではなくて?」

「相変わらず、口だけは達者ですね」

「レジスは、最近威勢が良いようですね。何かあったのですか?」

「義姉上には関係ありません」

「そうですか。

 それで、ジャンヴィール様は生徒会の者を連れて校内の見回りですか?噂でお聞きしましたよ。ジャンヴィール様自ら、校内を見て回っていらっしゃるとか」

「ああ」


 ローレットに軽くいなされたレジスが憤りそうになるのを、ジャンヴィールが手で制して留める。身内とは言え、実子と養子では立場が異なる。ましてローレットの言葉は間違っておらず、問題を起こした場合、レジスに非が生じる。


(挑発には乗ってきませんか。子供の様に感情のまま騒ぐと思っていましたけど、周りの目がある分、多少は身を弁えているのでしょうか?)


 ローレットの狙いは、あくまでリリアーナであった。前回でもそうであったが、ジャンヴィールの考えに賛同した段階で、レジスがアルファン家を継ぐことはない。一番望んでいたものを自ら捨て去ってしまったのだから、レジスに対しては何もする必要がなかった。


「まるでパレードですね」

「これは学園の治安維持に大事なこと。事実、今年度はトラブルの数がとても少ない。愚弄するのは止めてもらおうか」

「まぁ、申し訳ありません。ですが、皆様が通る度、生徒達はその場から動けなくなりますから」


 ローレットの指摘に、ジャンヴィール達は周りを見回す。注目を浴びていると良い様にだけ捉えており、自分たちの行動がどのような問題を起こしているかまで気づいていなかった。


「それと、あまり頻繁にしては、権威が薄まってしまいますよ」


 ローレットの挑発にリリアーナは怒りを堪えられず、ローレットを諫めようと1歩踏み出そうとするが、それをイヴァンが咄嗟に腕を掴んで止める。リリアーナは抗議するも逆に控えるよう注意され、揉め始めた。


(嘘でしょ。どういうつもり?

 生徒会室ならまだしも、こんな大勢の前で。ジャンビール様に恥を掻かせるだけじゃないの。

 危ないところでした。あの1年生に助けられましたわ。

 ふぅ。完全に見誤っていました。もっと慎重に動きませんと)


 リリアーナの非常識な反応に、ローレットは内心焦りを覚えた。

 今回はリリアーナがどの程度の挑発で、どのような反応を示すか探りを入れるだけのつもりだった。それがまさか、大勢の前で王族と上位貴族の間に割って入ろうしたのだ。父からはまだ大人しくしているように言われているため、騒ぎを起こすつもりは全くなかった。


「見回りに関してご忠告を述べたかっただけですので、ジャンヴィール様のお仕事の邪魔にならぬよう、これで失礼させていただきますね」


 これ以上ジャンヴィール達と言い合っては、今度こそリリアーナが問題を起こしかねない。そう感じたローレットは早々に退散することにした。

 背後で何が起きていたのか気づかなかったジャンヴィールは、ローレットが慌てるように去って行ってしまったことに戸惑いを見せる。近くのガストンやリュドヴィック、レジスを見るも、3人とも同様の反応で顔を見合わせるだけだった。

 このまま見回りを続けようにも、行く先はローレット達が去って行った方向である。何より、パレードと揶揄されたことが引っかかってしまい、ジャンヴィールは来た道を戻り、生徒会室に帰ることにした。

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