運命の日
冬季休暇が終わり後期に入ると、最終試験を前に学園内の空気は張り詰めていた。この試験の結果で、将来が大きく左右されることもあるからである。特に下位貴族は、成績が悪かったことを理由に就職できなかったという事例もある。少しでも良い成績を残そうと、皆必死になっていた。
そんな中リリアーナは空気を読まず、周りの迷惑を顧みることなく、同志を集めようと理想を語っていた。彼らはこの時期に問題を起こしたくないと大事にしなかったが、流石にジャンヴィールの耳に入りリリアーナは生徒会の監視下に置かれることになった。
そしてついに運命の日、前回ローレットが断罪された日が訪れた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
3日前に届いた手紙をローレットは見直す。
『3日後、大講堂で待ってます。 リリアーナ』
手紙の内容は前回と全く同じだった。
しかし状況は全く違う。追い詰められているのはローレットではなくリリアーナ。孤立しているのもリリアーナ。全てがローレットの復讐計画の目論見通りであった。
本来なら、下位貴族からの一方的な呼び出しにつき合う必要はない。それでもローレットがこの場に来たのは、全ての決着をつけるためであった。
「ヴィヴィアン、万が一の時は頼みます」
「お任せください」
短いながらも、交わした言葉は張り詰めていた。前回は、カッとなったローレットがリリアーナを突き飛ばして怪我をさせてしまった。それこそがジャンヴィール達が仕掛けた罠で、ローレットは殺人未遂として処罰されることになってしまった。
(今回リリアーナを傷つけるようなことは絶対しない。でも、何が起きるかはわからない。状況が違うのに、前回と同じ日に呼び出しを受けた。もしこの日、この時が運命と言うのなら、今度はリリアーナが私を傷つけようとするのかも)
ローレットは側近達と頷き合うと、扉を開けて中に入った。
中を見回すもリリアーナの姿は見えないが、ローレットは迷うことなく舞台に向かって歩き出した。
(前回と同じなら)
ローレットの推測通り、舞台袖からリリアーナが姿を現す。
「待っていましたよ、ローレット様。
そっちの側近の方。話があるのはローレット様です。貴女達は必要ありません」
久しぶりに見たリリアーナの姿にローレットは驚き、表情が固まる。目は爛々と輝いているのにどこか虚ろで、目の下には大きな隈が出来ている。かつての朗らかで可愛らしい顔は消え失せていた。
ローレットは息を吐いて心を落ち着かせると、リリアーナに向き直った。
「貴女の言葉を受け入れるつもりはありません。側近の同席を認めないと言うのなら、帰らせていただきます」
「ふふッ。喋った。やっと私と喋った。これまでよくも私を無視してくれたわね。馬鹿にして、蔑んで、何様よッ!」
「ふぅ。貴女がマナーを無視しただけです。私が咎められる謂われはありません」
「巫山戯ないでッ!人が話しかけてるのに無視するなんてッ、それのどこがマナーなのよ!そっちの方がマナー違反じゃない!」
「そう言われましても、それが貴族のマナーですから。優秀な貴女ならご存知でしょう?話しかけるのは上位貴族から――ということくらい」
「くッ!やっぱり今の社会はおかしい。間違ってる。正さないと、みんなが不幸になる。こんな巫山戯たマナーが許されるなんて、絶対間違ってる」
ローレットの狙い通り、リリアーナは挑発に乗り苛立ちを大きくする。親指の爪をガリガリと囓り始めた。以前は見せなかった、初めて見せる姿である。精神的に追い詰められ、限界に達しようとしているのが見てとれた。
(あと少し)
「それで、私を呼び出した理由は何です?これ以上無駄話をするようなら、帰らせていただきます」
「逃げるの?第一位貴族のローレット゠アルファンともあろう方が、逃げるんだ?」
「負け犬の挑発とは、見ていて哀れですね」
「なッ!?誰が負け犬よッ!!」
挑発し返されたリリアーナは、あっさりローレットの術中に嵌まる。
「また私を馬鹿にした。許さない。許さない。許さない――」
リリアーナの何かが壊れてしまった。すでに自分でも何を見ているのか、何を考えているのか、何をすべきなのかわからなくなっていた。ただ1つリリアーナの中にあったのは「目の前の女を排除しなくてはならない」ということだけだった。
この場を去ろうとローレットが後ろ姿を見せると、リリアーナは隠し持っていた短剣を取り出した。歩き出したローレットに向かってリリアーナは一気に駆け出した。
「危ないッ!」
扉が開き、大講堂に声が響いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
短剣を両手で握り締め、リリアーナはローレット目がけて一直線に駆けた。気づかず後ろ姿を見せ続けるローレットまであと少しというところで、世界が回った。大きな音と共に、全身に衝撃が走った。
何が起きたのかわからなかった。目の前にいたはずのローレットが何故か消えていた。しばらく呆然とした後、自分が立っていないことに気づいた。
(あれは天井?何で私?)
自分が何故寝ているのかわからずリリアーナは慌てて立ち上がろうとするが、重いものが身体に乗っていて起き上がることが出来なかった。不思議に思い、自分を押さえつけているものに目を向け、リリアーナはようやく自分が押さえつけられていることを知った。
「何これ?何で?ちょっと、退きなさいよ。アナタ、何してンのよ!」
「大丈夫か?」
聞き慣れたジャンヴィールの声が聞こえ、リリアーナは助けを求める。しかし「無事か?」というジャンヴィールの声は聞こえるものの、何故か離れた所から聞こえる。それに押さえつけられたままで、一向に解放されない。
「ジャンヴィール様ッ。早く、早く助けてくださいッ」
「ローレット、本当にどこも怪我はないのだな?」
「はい。ヴィヴィアンが護ってくれましたから」
「そうか。良かった。本当に良かった」
(何であの女と話してるの?今酷い目に遭ってるのは私なのに)
「ジャンヴィール様、早く助けてください。早く!」
「ガストン」
ジャンヴィールの命を受けたガストンが近づいてくるのが気配でわかった。リリアーナはようやく解放されると安堵するも、何故か拘束されたまま立たされる。
状況が全くわからなかった。どうして悪役令嬢と言われているローレットがジャンヴィールに庇われるようになっているのか。どうして自分が拘束されているのか。
「ジャンヴィール様ッ、これは一体!?」
「リリアーナ、其方はなんてことを・・・」
「えっ?」
「どうしてローレットを殺そうとした?何故そこまでローレットを憎む」
「殺そうと?一体何を?私がそんな事するわけないですッ。信じてください!」
「なら、そこの短剣は?それは其方の物ではないのか?」
ジャンヴィールが指差した所に短剣が落ちていた。それは紛れもなく、リリアーナの物であった。
「えッ!?し、知らない。確かにそれは私のですけど。違う。私は殺そうとなんてしてない。間違いです」
「リリアーナ・・・」
悲しい目を向けられ、リリアーナはジャンヴィールが自分の言葉を信じてくれていないことに愕然となる。どうすれば信じてもらえると必死に頭を働かせる中、ジャンヴィールの後ろにいたローレットが笑ったように感じた。
(アンタかッ!)
「ジャンヴィール様、その女です。全部その女が仕組んだことです。私は嵌められたんです!信じてください。
ローレット様、いくらなんでもこれはやり過ぎです。いままでのように、嫌がらせでは済みませんよ。これは事件です。ジャンヴィール様、後ろのローレット様を捕まえてください」
「何を言っている。リリアーナ、其方がローレットを刺し殺そうとしたのを私ははっきり見た」
「え!?」
「私だけではない。ガストンもレジスもフランシスクも見ている」
「嘘?嘘ですよね?」
リリアーナの問いに、ジャンヴィールはただ厳しい目を向けるだけだった。
「レジス様。レジス様は信じてくれますよね?」
目で無実を訴えるも、レジスに目を背けられてしまう。
「あぁああああああ。巫山戯ンな!何で誰も私のことを信じない。私が第五位だからかッ!下位貴族は無実の罪を負わせられるのか!狂ってるッ!この社会は狂ってる。
その女が悪いのは明らかじゃない!お前がいるから上手くいかないんだ。私がツラい目に遭うのは全部お前のせいだ。お前は生きてることが悪だ。悪は去れ。悪は滅びろ!死ね!死ね!死・・・」
突然腹を殴られ、リリアーナは痛みに耐えきれず吐瀉してしまう。痛みと苦しさで涙と鼻水が溢れ、口には吐瀉物がついて酷い有様だった。
「騒がしいです」
主人に対して無礼極まりないリリアーナに、ヴィヴィアンが怒りを堪えきれず力尽くで黙らせる。突然のことと、静かながらも迫力あるヴィヴィアンに、ローレットもジャンヴィールも何も言えず固まってしまう。皆の視線がヴィヴィアンに集まる中、ユーラリーとベルテがこっそりと拳を合わせる。静かな大講堂の中、リリアーナの咽せ返す声だけが響いた。
「――ッ!ガストン、リリアーナを守衛まで連れて行け。私も後から行く」
(違う!私は何もしてないッ。信じて!お願い、信じて!)
痛みと苦しみで声が出せずリリアーナは心の中で叫ぶも、その思いは誰の元にも届かなかった。ガストンの圧倒的な力に抵抗敵わず、リリアーナは引き摺られるよう連れて行かれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リリアーナの消えた出口には、いつの間にか大勢の生徒が集まっていた。
(ジャンヴィール様が証人になればと思ってましたが、これだけの方の証言があればリリアーナはお終いですね。何せ、あれ程の狂人ぶりを見せたのですから)
復讐計画が成功に終わり、ローレットは安堵の溜息を漏らした。
この1年、実に有意義だった。友人達と協力しながら一緒に考え、挑戦し、多くの経験を得た。ヴィヴィアンもユーラリーもベルテも嬉しそうに笑っている。周りに大勢の人がいるので何も言えないが、早く皆と喜びを分かち合い、語り合いたい気持ちだった。
「ローレット」
声のした方に顔を向けると、ジャンヴィールが悲痛な顔をしていた。
「何でしょう?」
「生徒会長として、リリアーナが暴挙を起こしてしまった事を深く詫びる。この通りだ」
ジャンヴィールが頭を下げるとどよめきが起こった。王子とは言え、王族が頭を下げて謝罪するなど滅多なことではない。つまりこの件は王族の失態であり、王族が全責任を負うということである。ジャンヴィールとしては、ローレットに対しての精一杯の配慮であった。
しかしこれはジャンヴィールの勇み足であり、王族としては失態であった。そして何より、ローレット自身がジャンヴィールの謝罪を迷惑としか感じていなかった。
「ジャンヴィール様、頭を上げてください。今回の事は予測出来なかった事です。ジャンヴィール様に責任があるとは思えません」
「いや、しかし。私は生徒会長としての責任がある」
「生徒会は、学園での問題を解決することに責任を負うのでは?未然に防げないことまで責任を負うのは、あまりに理不尽ではないでしょうか」
「そ、それはそうだが・・・」
「幸い、私はヴィヴィアンのおかげで傷一つありませんから」
「そ、そうか・・・。其方は優しいな」
ローレットはジャンヴィールの言葉に微笑みで返した。
(違うわよ。ジャンヴィール様と関わりたくないだけですから。復讐は終わったの。ジャンヴィール様の出番はもうないの)
「私は其方のことを勘違いしていたようだ。この1年で、それがようやくわかった」
「はい」
「これまでのことは水に流し、改めて其方と婚約を結ぼうと思う。受けてくれるな?」
「はい?」
ローレットはジャンヴィールが何を言っているのか理解出来ず、間の抜けた声を出してしまった。
(え?何?何を言ってるの?婚約?婚約を結ぼう?受けてくれるな?)
徐々に頭が働き出し、ジャンヴィールの言葉の意味が、ジャンヴィールがどう考えているかわかってくると同時に、ローレットの中に怒りが湧いてきた。期待に輝かせた目が、より一層ローレットの怒りを滾らせる。
(婚約解消はジャンヴィール様の有責じゃないですかッ。それがなんで?結ぼう?立場が違うでしょ?
確かに書類上は双方に非はなしってしたけど。それはシルヴェーヌ様と敵対したくなかったからだし。大事にするより貸しをつくった方が良かったからだし。何言ってるの?
それに、再婚約は禁止って条件つけてたの知らないの?出来ないの。無理なのよ)
何と答えれば良いかローレットが困惑していると、ジャンヴィールが何をどう勘違いしたのかわからないが、また見当違いの事を言い出した。
「皆まで言わずともわかっている。これまでの事、全て私を想ってくれての事だったのであろう?」
「はい?」
「リュドヴィックやガストンの件など、色々骨を折ってくれたではないか」
流石にこの場でリリアーナの名前は良くないと思ったのか伏せられたが、今の言葉でジャンヴィールがどう思い違いしているのか、ローレットはようやく気づいた。
(違いますから。ジャンヴィール様のことは、全く想ってませんからッ。大体、私の無実を証明する為って言ったではないですか。それがどうしたら、そうなるのですか!
それに、初めて会った時から私を嫌ってたじゃない。侮辱してたじゃない!)
ジャンヴィールの言葉を真正面から否定して、思いをぶちまけてはっきりと断りたいローレットだが、シルヴェーヌとの約束を考えるとどう答えれば良いか悩んでしまう。復讐計画の相手からジャンヴィールを外すこと、手を出さないことというのがシルヴェーヌとの約束であった。もちろん現在の状況は復讐計画とは全く関係ない。しかし相手は第一妃になったほどの人である。当然頭も切れるし力もある。学生のローレットでは太刀打ちできるはずもない。権力を持つ王家を相手に、僅かな隙もつくるわけにはいかない。
(お父様なら、上手くやれるのでしょうけど・・・。
そうだわ!お父様にお任せしましょう。そうしましょう)
王族の婚姻は、そもそもこのような勢いでするものではない。個人よりもむしろ家の方を優先する。
さてどうやってこの場をやり過ごそうかと考えていると、思いがけない人が割り込んできた。
「兄上、ローレット嬢が困っています。その位にしてはどうです?」
「エドワード・・・。
フンッ。お前の出る幕ではない」
(いえ。ジャンヴィール様の出番も終わってますから)
「そもそもローレット嬢との婚約解消は、兄上に問題があってのことではないですか。それを兄上の方から「改めて婚約しよう」というのは、あまりに筋違いというもの」
「ぐッ!」
居合わせた人々から響めきが起こる。
婚約解消の理由は、ジャンヴィールの継承権降格と同じく噂されてはいたものの明確にされてはいなかった。それを同じ王族のエドワードが口にし、ジャンヴィールが反論できなかったことで、噂は本当であることが示されてしまった。
勝ち誇るエドワードに、恥をさらされたジャンヴィールが怒鳴り散らす。
「う、うるさい!これは私とローレット、2人の問題だ。貴様には関係ないこと」
「そうは言いますが、目の前に困っている女性がいるのです。紳士として、王族として助けに入るの道理でしょう。
それに、兄上にはすべきことがありますよね?あの頭のおかしい生徒会役員の事情説明が。会長として責務を果たすべきなのでは?いい加減行かないと」
エドワードの真っ当な言い分に言い返すことが出来ず、ジャンヴィールはレジスとフランシスクを連れ、「覚えていろ」と捨て台詞を吐いて大講堂を後にした。
「礼を言った方が良いでしょうか?エドワード様」
「礼には及びませんよ」
エドワードの介入で助かりはしたが、聞いていた人物像とはイメージが違うことにローレットは驚いていた。
(大人しい、権力争いとは程遠い方と思ってましたが・・・)
先程の言葉も「兄を蹴落とすのに利用させてもらいましたから」と目が語っていた。
(ジャンヴィール様を完膚なきまでに失墜させる機会を窺ってた?それまで正体を隠していた?もしそうなら厄介な相手ですね。お父様はご存知なのかしら?)
「それにしても、厄介な相手に目をつけられたようで」
「本当に。困ってしまいます」
(貴方もその1人ですけどね)
「それにしても、こうしてローレット嬢と話をするのは初めてですね」
「そうですね。エドワード様は人気者ですから」
「フッ。実は前々から、ローレット嬢とはゆっくり話しをしたいと思ってました」
「まぁ。それは光栄です」
(どういうつもり?)
「これまで貴女は兄上の婚約者でした。それ故決して叶わないと諦めていました。
しかし婚約は解消され、今こうして貴女と話す機会を得ることが出来ました。
はっきり申し上げます。貴女が好きです。ずっと想っていました。どうか、私の思いに応えてくれませんか?」
周囲から歓声が上がるが、ローレットの耳には全く入ってこなかった。
生まれて初めての愛の告白。真っ直ぐで飾らない言葉。だからこそローレットの心に強く響いた。ましてエドワードは顔も良く、頭も切れる(?)。初心なローレットには、エドワードの言葉と想いを受け止めることすら難しかった。嬉しさと恥ずかしさが込み上げ、耳まで真っ赤に染まってしまう。
「えっ。あの、その・・・」
「返事は、今すぐでなくても結構です。このような機会は二度と訪れないかと思い、私の気持ちをどうしても伝えたかったのです」
「あの、でも、エドワード様と私では派閥が・・・」
「貴女と共に歩めるのなら、私は何を投げ打ってもかまわない」
「そんな・・・」
思いも寄らぬエドワードの言葉に、ローレットは感極まってしまう。これまでローレットが深く関わってきた同年代の男性は、ジャンヴィールとレジスだけだった。この2人から向けられてきた感情に、ローレットは女性としての自信を持てないでいた。それ故、エドワードがどうしてこれほどまでに自分を想ってくれているのかわからなかった。聞いてはいけないとは思いつつ、どうしても尋ねずにはいられなかった。
「あの、――私のどこを気に入ってくださったのでしょうか?」
「貴女は私の理想そのものです」
そう告げたエドワードの目線が少し下がった。
最初はわからなかったローレットだったが、エドワードが何を見ているのか気づくと、慌てて両腕で胸を隠した。今度は羞恥で顔が真っ赤に染まる。
「なッ!?なッ!?」
羞恥と次第に湧いてきた怒りで感情がごちゃ混ぜになったローレットは、混乱のあまり言葉が出てこなかった。目には涙が浮かんできた。
自分がどこを見ているか知られたエドワードが慌てて「違う。違います」と言い訳するも、誤魔化しようがなかった。エドワードが大きい胸の女性が好きというのは、女生徒の間では有名な話である。ハーレー゠イングリスがエドワードの婚約者になれなかったのは胸が小さかったからという話もあるくらいである。
これまで後ろに控えていたヴィヴィアンが2人の間に入り、エドワードの視線からローレットを守る。ユーラリーとベルテもエドワードに見られないようにローレットを抱きしめた。
「よくも。よくも・・・」
大勢の前で辱めを受けたローレットは、それ以上言葉に出来なかった。
側近達に守られながら、ローレットは大講堂から出て行く。後ろの方から「違う。違うんだ。待ってくれ~」という叫びが聞こえてきたが、待てと言われて待つ人はいない。ローレットは振り返ることもなく立ち去った。
(よくもこんな辱めを・・・。許さないから。うぅ、絶対、絶対復讐してやる)
ローレットの新しい復讐が始まる。




