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婚約解消

 夏季休暇に入って3日目、ローレットは父親のベレンジャーに連れられ王城を訪れていた。通された部屋には、絵画や美術品が数多く飾られている。高価な美術品を数多く所有しているということは、主、つまり王家が富んでいる、権力(ちから)を持っているということを表している。

 そのトランティニアン王国で国王に次ぐ高位であるシルヴェーヌ第一妃が、ローレットの向かいに座っている。面会の目的は、かねてより申し上げていたジャンヴィール王子との婚約解消をする為である。表情は取り繕ってはいても、シルヴェーヌのまとう雰囲気は明るくない。理由は明白で、婚約解消の理由が息子のジャンヴィールにあるからであった。


「今日呼び立てたのは、諸々の準備が整ったからです」


 シルヴェーヌの言葉を受けて、立会人がシルヴェーヌとベレンジャーに書類を取り出して手渡す。2人は書類に問題がないか確認した後、交換して両方の書類が同じであることを確認する。


「「問題ありません」」


 シルヴェーヌとベレンジャーの同意を得たことで、立会人は書類の内容を説明し始めた。


「こちらは、ジャンヴィール王子とローレット=アルファンの婚約解消を行う為の書類です。内容は以下の通りです。

 本日を以て2人の婚約を解消する。

 婚約解消は双方合意のものとする。

 双方に非は存在せず、婚約解消にあたり賠償は発生しない。

 当婚約解消の無効は禁止とする。また、ジャンヴィール゠トランティニアンとローレット゠アルファンの再婚約は禁止とする。

 以上の内容で問題ないようでしたら、双方署名をしてください」


 ローレットは自分の名前を書くとベレンジャーに書類を渡した。まだ未成年のため、保護者の署名も必要というわけだ。ベレンジャーが署名を終えると、今度は書類をシルヴェーヌと交換して署名する。最後に立会人の署名で終わりとなる。


「以上で、ジャンヴィール゠トランティニアンとローレット゠アルファンの婚約解消が成立となりました。お疲れ様でした」


 立会人は書類をシルヴェーヌとベレンジャーに渡すと部屋を出て行った。

 この書類は互いが保管することになる。これは片方が契約を勝手に無効や改変しないようにする為である。


(やっと、終わった。

 違うわね。やっと始められるわ)


 前回の人生でローレットは、ジャンヴィール達の罠に嵌まりウーヴラール修道院に送られてしまった。ジャンヴィール側に問題があったことで、彼らは相応の処罰を受けることになった。「無様ね」と嘲笑する一方、自ら葬り去ることが出来なかったことへの悔しい思いもあった。特にリリアーナに対しては、自分の手で葬り去りたかった。


「ベレンジャー。こちらが約束の物です」


 シルヴェーヌの文官から受け取った書類の束を、ベレンジャーがローレットに渡す。ジャンヴィールを除いた生徒会役員達に関する調査記録である。この調査と彼らへの謀略がアルファン家への慰謝料代わりであった。

 ジャンヴィールとの婚約解消の理由を公にしては、王家と派閥双方に大きな損害が生じてしまう。王家は自他国への信頼を損ない、権力(ちから)が低下してしまう。ジャンヴィール王子(第一王子)派は壊滅し、エドワード王子(第二王子)派が圧倒的な権力(ちから)を持つだろう。それは、ここにいる誰もが望まないことであった。そこでローレットの望みを叶えることを、ローレットとアルファン家が被った損害への補償とすることとなった。


「ありがとうございます、シルヴェーヌ様」

「いいえ。こちらこそ迷惑をかけましたね。貴女の今後の活躍、楽しみにしてますね」

「精進致します」

「それと、くれぐれも約束は守るように」

「はい」

「話は終わりましたね。下がって良いですよ」


 シルヴェーヌの言葉を受け、ローレットは立ち上がって部屋を出る。ベレンジャーは事前に聞かされていた通り、部屋に残ってシルヴェーヌと今後について話し合う予定である。1人廊下に出たローレットは、部屋の外で待っていた護衛の1人を連れて歩き出す。


(欲しかった物も手に入ったし、これから忙しくなるわね。楽しみだわ。

 まずはお母様に相談して。お父様の意見も聞きたいし、協力も必要になるでしょうから、早く帰っていただきたいわ)


 リリアーナ達の調査報告書を抱えたローレットは楽しみが隠しきれず、知らず口元が緩んでしまっていた。

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