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エピローグ②

「それがね、刑事さん。ひょんなことから、突然、当時の記憶が蘇って来たのです。百田が去年の忘年会で、『君の息子の大将君が映っているから』と言って、遊戯会の様子を撮影した動画を見せてくれました。そこに大将が映っていたのですが、あいつ、当然ですが、自分の息子の梨央君を中心に撮影していました。あいつの息子の顔を見た途端に、全てが蘇って来たのです。

 梨央君はまるでトッチャンの生き写しでした。百田はトッチャンだったのです。そりゃあ、親子ですから、似ているのは当たり前ですよね。とにかく、梨央君の顔を見た途端に、封印してあった記憶が、洪水のように押し寄せてきたのです。

 当時、百田はうちの近所に住んでいて、敏郎という名前からトッチャンと呼ばれていました。トッチャンというあだ名だったので、池にアツシを突き落としたのが、父親だと勘違いしてしまったのかもしれません。

 百田は当時のことを忘れているようでした。でも、僕は全てを思い出しました。確かめると、あいつ、隣町の出身で、うちの近所に住んでいたことが分かりました。あの日、アツシを池に突き落としたのは間違いなく、百田だったのです」

「弟さんが事故死したのは、三十年くらい前のことでしょう?三十年も経ってから、弟さんの復讐を果たしたということですか?」

「去年、親父が亡くなりました。病死ですが、アツシの事故をきっかけに、親父との仲はどんどんこじれて行きました。親父はアツシが死んだのは、僕の責任だと考えていたし、僕は(本当は親父が弟を池に突き落としたんだ)と疑っていたのです。そうだ。刑事さん、僕の名前、仁尾という名前、珍しいと思いませんか?」

「ええ、あまり聞いたことが無いですね」

「仁尾という姓は、桓武平氏のひとつ、三浦氏に端を発する由緒ある苗字なのです。もともと、『(じん)』に『(たもつ)』で、『仁保』と言う漢字を書きました。三浦半島に蟠踞した三浦氏の庶流で、西国の周防国、仁保荘に所領を得て仁保氏を名乗ったのが最初だそうです。中国地方の覇者だった毛利氏に仕えて、毛利氏の勢力拡大に合わせて地方に散らばり、「ほ」の発音が「お」に変わり、漢字も仁尾に変わりました。

 うちの会社、三浦化学の初代社長は三浦姓で、三浦氏の末裔だと称しています。先祖が同じなのです。だから、この会社を選びました。ああ、余談ですけど。

 うちはね。カビの生えた家系にしがみついているような、時代遅れの家でした。父は『我が家は武士の家系だ。名を汚すような卑怯な振る舞いだけは、決してするな!』といつも言っていました。弟を見殺しにした、卑怯な僕を父は決して許してはくれませんでした。そうそう。アツシが死んだ時、まだ祖父が健在でした」

「お爺さんが――?」

「頑固な人でしたが、僕には優しくて、祖父のことが大好きでした。祖父が亡くなった時、社交的な人とは言い難かったのに、弔問客が引っ切り無しにやって来ました。そして、みな、祖父の遺影に手を合わせ、敬礼をして去って行きました。

 何故、こんなに大勢の人がお悔やみに来るのか不思議でした。すると、父が言いました。『親父は昔、海軍に居た。先の大戦の折に軍艦に乗っていた』と。そして父は居住まいを正すと、胸を張り、『武蔵』と言ったのです。祖父が乗っていた軍艦の名前です。祖父は戦火の中で撃沈した戦艦、武蔵の乗員の生き残りだったのです。大勢の弔問客は自衛隊の関係者で、生前、とくに交流は無かったのですが、武蔵の乗員であった祖父の死を伝え聞いて、弔問にやって来たのでした。

 僕にとって祖父は英雄でした。そんな祖父でさえ、アツシの事故のことを伝え聞いてからは、『あの子はダメだ』と言って、僕と口を効いてくれなくなりました。刑事さん、『武士の一分』って言葉ご存じですか?」仁尾が安達に尋ねる。

「ええ、知っていますよ。侍が命に代えて守らなければならない意地や面子のことでしょう」

「そうです。僕と父の親子関係は最悪でした。父とは和解することなく、死に目も看取りませんでした。今となっては全てが遅い。それもこれも、全部、百田のせいなのです。あいつが、素直にアツシを突き飛ばしたと告白してくれていれば、僕はこんなに苦しまずに済んだかもしれない。僕は面子にかけて、あの男に復讐しなければならなかった。武士の一分です。

 刑事さん、あの事件は三十年前のことなどではありません。僕にとっては、永遠に忘れることが出来ない、現在進行形の事件なのです」

 仁尾はそこで言葉を終えた。長い告白に疲れ切った表情を浮かべていた。

 遺体を桃の張子に押し込んだ理由について、仁尾はこう語った。「刑事さん。昔ね、晒し首ってあったでしょう。あれって、これこれこういう罪で処刑したって、広く人々の間に広める為にやっていたのでしょう。

 今はメディアが発達して、晒し首になんてしなくったって、一瞬でニュースが広まります。でもね、逆にニュースが多すぎて、ちょっとした事件だと人は直ぐに忘れてしまいます。殺人事件だって、毎日のように起こる。人が殺されたってだけじゃあ、誰も気にしません。

 桃太郎が桃から生まれる前に殺されたとなると、面白いでしょう? きっと、大勢の人の記憶に残る。僕はね、例え捕まったとしても、あいつのやったことを、大勢の人間に覚えておいてもらいたかった。あいつの卑劣な行為を、大勢の人間に知ってもらいたかった。だからね、わざわざ苦労して遺体を桃に詰めたのです」


                                           了

恵美常勝・多摩翔コンビを主人公とした短編小説。新しいキャラクターを生み出すと、そのキャラクターを主人公にいくつか作品を書いてみたくなる。

この作品は、もともと別のキャラクターが主人公を勤めていたが、恵美常勝・多摩翔コンビの作品として生まれ変わらせたもの。

桃太郎が殺された! という、ただそれだけの発想から、アイデアを膨らませていったもの。無理無理な感じもあるが、何とか形をつけることができたと思う。

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