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迷子と折衝

「あーん! ここどこ! おかあさーん!」

どこに行ってもお母さんはいなくて、泣いていた。見たことのない場所、見たことのない小さな生き物たち、なんだろうこれ。

どうしてお母さんはいないんだろう。

あんまり泣いてたらお腹もすいてきた。

でも食べるものも見つからない。

「うう、おかあさーん!」

手当たり次第に動き回ったけれど、お腹が空きすぎて動けなくなってきた。このままこの分からないところで一人なのかな。動けなくて、お腹も空いて、どうしたらいいの?

「イタッ!」

気づいたら小さな生き物たちがボクを攻撃してる。すごい痛いわけじゃないけど、邪魔。でもボクが炎吐いたらこの生き物多分すごい怪我しちゃう。あんまり小さいのいじめたらお母さんに怒られちゃう。

でも、痛いなあ。どうしよう。

お腹も段々限界がきそう。

どうしよう、でももう面倒になってきた。

炎吹いてもいいかな?

いいよね?

「もういいや。怒られてもいいから、炎吐こっ!」

決めたら気分が軽くなった。よし、と気合いを入れてお腹に力をこめる。

「あーあー! ちょっと待って!」

でもその前に白いお兄さんが目の前に降りてきた。細長い身体でシュッとボクと小さな生き物の間に立つ。

ボクだけじゃなくて、小さな生き物たちも驚いたみたい。

「こら、ちび! お前崖から落ちたらしいな。ママが捜してたぞ。帰してやるからちょっと待ってろ。それからえっと……『突然すまない。私たちに君たちを害するつもりはない。後で詳しく説明をするが、一先ずこの子を元の場所に帰してくるから少し待っていてくれ』」

お兄さんはお母さんが何処にいるか知ってるみたい。小さい生き物に説明をしてるのをおとなしく待っていると、終わった後帰る場所を教えてくれた。元の場所に帰れる道を教えてくれて、本当にその通りにしたらお母さんに会えた。

「おかあさーん!」

お母さんに抱きつくと、お母さんも抱きしめてくれた。

「もう、崖には気をつけなさいと言ったでしょう! なんとかティグに連絡ついてよかったわ」

「ティグ? さっきのお兄さん?」

「そうよ。言葉が堪能だからね。何とかしてもらおうと思って慌てて呼んだの」

今度お礼を言いましょう、とお母さんが言うのに頷いた。


***


「さて、説明をしよう」

ここは我らが棲まう世界とは異なる表裏世界。ちびっこが迷い込んだおかげで何故か我も訪れる羽目になった。

ちびっこは無事送り届けたが、何の説明もないのは困るだろう。それにまたこのようなことが起きても困る。彼ら小さき者たちを徒に刺激したいわけでは無いのだ。

再度訪れると、小さき者たちは我に膝を折った。そこまでは求めていないが、時折迷い込む我らを誰かが見て知っているのであろう。彼らより強い存在であることは間違いがないのだ。簡単に説明をしてしまおう。

「我らはここと別の世界に存在する。おぬしらが知らぬのは承知だが、我らとおぬしたちの世界は表と裏で繋がっていてな。時々迷い込んでしまうのだ」

一人、派手な身なりのものが進み出る。

『時々あなた様のような竜の伝承が残っております。それは迷い込まれた方、ということでしょうか?」

「そうだ。竜というのは我らのことだな。湖の底や、崖下、森の影など見えにくい場所に空間のひずみがあって、どうにも時々迷い込んでしまうのだ」

知っているのならば話は早い。さっさとまとめて我も帰ろう。

「もし迷い込んだならば、とりあえず刺激しないように保護していてほしい。なるべく早く迎えには行くようにするので」

どうせ呼び出されるのは我ら一族の誰かなので、保護さえしてくれれば何とかなる。だが小さき者は戸惑っている。小さき者には保護は難しいのか。

『あの、私どもの国には周知させることは出来ます。しかしこの世界には他にもたくさんの国がありまして、私どもも他の国のすべてに伝えることは難しいかと……』

「……そんなにたくさんの国があるのか?」

我らが棲まう世界には国というくくりはない。部族ごとに棲んでいるので国と言えば国だが、周知したいときは誰かが叫べば伝言で伝わっていく。小さき者たちにはそういう方法はできないのか。

『あの、協力できる国ととりあえずこの話を共有するようにいたします。そこから私どもと国交がない国にも伝えてもらおうと思います』

「そうか。……時間が掛かりそうだが仕方ないか」

『あ、あの、それで申し訳ないのですが、一度他の国との話し合いに一緒に来ていただけませんか? そのお姿を一度見せていただければ皆も納得すると思いますので』

これはとても面倒くさいことになった。我の表情で察したのだろうが、小さき者はなんとかとひたすら頭を下げている。仕方なく、了承すると小さき者はホッと息を吐いた。

一度元の世界には戻ったが、またこの世界に来る羽目になった我はまさかその後数年戻れなくなるとは思っていなかった。

その後、我は表裏世界で最初の外交官として働くことになる。



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