老竜と青年
最近とんと起きてこない。時々腹が減り、うつらうつらしながらも飯を食うが、それ以外ほぼ起きていない。目を開けてもどこを見ているのかぼんやりとしている。
つまり心配しているのだ。
なんだかんだで俺はこの変な相棒を気に入っている。
「おい、大丈夫か?」
やはりその日も目の焦点が合わない奴に声を掛ける。俺の声に反応はするものの、気分は悪そうだ。
「やはり医者に見せるべきなのか……」
「医者なんぞ……、どうにもならんじゃろうが」
つらそうにしながらも少しは意識があったようで、返事があった。
「そうは言ってもな」
「大体この世界のどこに儂をみれる輩がおるんじゃ……」
「そうだなあ……」
さみしげな言葉には同意するしかない。とはいっても誰もいないとも思えない。
次の町に行ったならば、役所に赴くべきか。そう思いながら俺はつるつるとした奴の肌をなでる。
何しろこの世界には竜は基本いない。しかも奇病に冒されたというならば、更にない。それでも縋るのならば医者ではなく役人だ。
「とにかく早く次の町へ急ぐよ。落ち着けるところへ行こう」
町に竜の出向役人がいることを祈りながら、そしてこの相棒を労りながら、俺は歩くしかなかった。
数ヶ月前に突如落ちてきたこの竜は奇病に冒されている。元々は普通の竜の大きさだったらしい。人間よりも何倍も大きく、それは見上げても顔が見えないくらいはあったという。それなのにこちらに落ちてくる前に何故か体積が縮んできたらしい。そのうえそれはずっと続き、今では鞄の中に隠れてしまうほどだ。
食べるものは人と同じで、それだけは良かったと心から思う。おかげで何とか生きている。食べることが出来るのならば、何とかなる。
そうやって誤魔化しながら着いた町には幸いなことに役人がいた。しかもこちらに出向している竜の役人がいた。
役人は彼を診ると、思案しつつも答えてくれた。
「これ以上体が縮まないようには出来ます。しかし元の大きさには戻れない。死ぬよりは全然マシでしょう。治療しますよ」
原因は寄生虫らしい。こちらに落ちる前に食べた果実についていたらしい。竜を縮める寄生虫など恐ろしすぎる。ただ原因がわかって良かった。ホッとしていると、笑顔で付け加えられた。
「では、治療後は貴方を保護者として登録します。仲良くするんですよ、二人共」
俺と彼の視線が被る。お互いに困ったような嬉しいような、照れくささが浮かぶ。
「この体では仕方ないからのぅ。治れば護衛くらいしてやるぞい」
「その大きさでは踏まれちまうからな。まあ、旅は道連れとも言うしな」
なんとなんと、下手な言い訳を口にしながら、顔はどちらも笑っていた。