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友美は平塚店長と白坂店長の存在を知っていたので、彼らの人気がここまで来たかと考えながらポップを貼っていく。お客さんが来店された際はレジで対応し、お客さんがいない時は店内の清掃をした。そうこうしているうちに山田が出勤してきて、
「友美おっはよー!」
と興奮した様子で声をかけてくる。
「あ、おはようございます」
山田を無碍にはできず、友美は挨拶のみ返す。もちろん塩対応を心がけた。心の中では最悪だなと思っていたとしても。
お昼時なので多くのサラリーマンやOLさんが昼食を買いに来店する。レジは少し混雑気味だった。レジが2つとセルフレジが置いてある仕様だけれど、忙しい時間帯は混雑緩和のためセルフレジの使用をできないようにするのがルールだ。友美がセルフレジのスキャナーを使い、名札にあるバーコードを読み取った。これでセルフレジは有人レジに変わる。
怒涛の会計ラッシュが終わり、客数もピーク時よりは少なくなった。友美の退勤時間間際に山田が
「友美、今度ご飯でも……」
と誘おうとし、友美は困惑した。それを見ていた中塚さんが「松下ちゃん、行こう」と友美をバックヤードに連れていく。
「ありがとうございます。それにしても中塚さん、どうしてここまでしてくださるんですか?」
友美が訊くと、中塚さんは過去にあった出来事について語った。
「松下ちゃんが入ってくる前にハタチの大学生の女の子がいて。その子も山田くんから頭ポンポンされたり何度もデートに誘われたりして、彼氏がいるから無理って言ってもしつこかったんだって。その子はあんまりシフトに入ってなくて、私も何回かしか出勤被ってなかったけど……。2人の時に『大丈夫? 嫌なことあったら言ってね』って声かけたことあって、その子は『大丈夫です』って言ってたの。それ以上踏み込めないでいたら、どんどん体調不良で休みがちになって。それで最終的に辞めちゃって。私なんにもしてあげられなかったなって。だから松下ちゃんも、何かあったら言ってね?」
「そんな……。それは中塚さんのせいじゃないですよ。大丈夫ですって言われて、それ以上踏み込むのにも勇気がいりますしね……」
友美は中塚さんの話にこう返した。山田の被害者は過去にもいて、彼女が退職してから友美がターゲットになったということだ。彼女は退職の理由を一身上の都合としか言わなかったので、表立って山田のセクハラ行為は問題にはならなかった。けれど中塚さんだけは薄々気づいていたのだ。