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アルバイト経験がなかったので、もちろん何度もミスを重ねたこともある。けれどお客さんにとっては、新人でもアルバイト経験がなくても18歳の女子大生であっても、「このコンビニの店員」であることには変わりがない。制服の青いシャツを羽織り、ひらがなで「まつした」と書かれた顔写真付きの名札をつけると、友美はたちまちプロの姿に変身する。男性店長に教えてもらい、少しずつできることが増えていった。ある日シフトが一緒になった中塚さんというベテランの年配女性パートスタッフに
「松下ちゃん、山田くんには気をつけて」
と忠告される。「山田くん」は30歳の男性アルバイトスタッフで、フリーターをしながらバンドマンもしているという。友美は最初は「ふーん、そうなんだ」と心の中で聞き流していたけれど、徐々に中塚さんの言っている意味が理解できるようになっていく。
数日後、ついに友美は例の「山田くん」と対面することになった。中塚さんから話は聞いていたので、友美はだいぶ身構えている。
「あ、はじめまして、松下です」
友美が言うと、山田は
「山田ですー! よろしくね友美ちゃん」
と下の名前で呼んできた。教えてもいないのに初対面の相手にフルネームで知られており、友美は恐怖心を抱く。なんで下の名前も知ってるんですかと訊きたいけれど、そんな勇気はなかった。山田はシフト表を見て友美のフルネームを知ったのだけれど。
友美が山田に品出しのしかたや発注のしかたを教わっていた際、山田は
「そうそう、よくできました!」
と友美の頭を撫でてきた。友美は嫌悪感で顔が青ざめ、「なんだこいつ?」と心の中で思う。アルバイト終わりに3人娘でお茶をすることになっていたので、その時にでも話を聞いてもらおうと友美は考えた。そうこうしているうちに友美の退勤時間がやってきて、店長に「松下さん、お時間です」と声をかけられる。それから友美は退勤し、待ち合わせ場所のカフェに向かった。
ちょうど咲空と沙織も同じタイミングで到着し、それぞれ飲みたいものを注文する。咲空はミルクティー、沙織はキャラメルラテ、友美はカフェラテにした。もちろん3人ともホットドリンクを選ぶ。
「バイト先に山田っていう30のフリーターバンドマンがいるんだけど……。初対面なのに下の名前呼び捨てしてくるし、いきなり頭撫でてくるしまじできもかったー」
友美が今日の出来事について話すと、2人とも
「えー、キモーい! 友美かわいそう」
「何そいつセクハラじゃん。サイテー」
と呆れ返っている。