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ヤンデレ後輩がつよすぎる!!!  作者: 五月屋もみじ
1章 黒き太陽は屍人を呪う
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6、眠れる山の美女

「ーーここは」


 蕾が花開くように、ゆっくりと深い紫の瞳が光を宿した。ノアはそれを、何の感情も持たない目で見つめる。


 代わりに冬真はあれこれと世話を焼いていた。水を飲ませ、顔を拭い、うなされる彼女の傍についていた。今も彼が彼女に話しかけようとしている。それがどうしようもなく悔しくて、ノアは口を開いた。


「私たちの家です。貴方が急に倒れたので」

「そう……それは」


 言いにくいだろうな、とノアはその心中を測った。自分たちを怪物として倒しに来た以上、看病してもらっても素直に感謝できないだろう。だが冬真はそんなこと気にせずに笑った。


「気にするな。ただ当たり前のことをしただけだよ」


 いいなぁ。


 自分も心配されたいのに、それはぽっと出の「メインキャラ」に奪われた。内心の嫉妬を覆い隠して、身を起こした少女に微笑んだ。


「動かないでください。今水を持ってきます」

「いえ、いらないわ」

「毒でも盛ると思ってるんですか? しませんよ、してもいいですけど」

「ノアっ」


 毒のこもった一言に、冬真が焦った目を向けるがノアは無視した。こんな女に向ける心配なんてひとかけらもない。


「でも本当に助かったわ。あのまま放置していたら、私は死んでいた」

「そうなのか!? よかった……あ、俺は冬真。こっちはノアだ」

「トウマに、ノアね。私はルシアよ。ルシア・フロー」

「ルシアか、いい名前だな」


 その言葉にノアは歯噛みした。単なる社交辞令のセリフとわかっていてもルシアが羨ましい。

 早く追い返そうとノアは言葉を継いだ。


「で、ルシアは私たちを捕まえるために来たんでしょ? こっちも助けたから、なんにもなかったって報告ぐらいしてほしいな」


 自分が偉そうなことを言っている自覚はあるが、紛れもない本心だった。一日中敬愛する先輩が隣にいる生活を手放す気はさらさらない。


「ノア、どうしたんだよ。失礼だろ」


 だからノアは、何を言われても折れる気はなかった。


「だってそうでしょ。私たちはルシアをほっといてもよかったのに……」

「……そうね」


 急に姿勢を正したルシアを、ノアはますます不審げに見ていた。


「確かに私は貴方たちに助けてもらった。この恩は返さなければいけないわ」

「じゃあ」

「私もしばらくここで生活してもいいかしら?」

「は?」


 思わず冬真と顔を見合わせた。今、ルシアは何を言った?

 嫌な予感を感じながらもノアは恐る恐る聞き返した。


「今、なんて?」

「だから、私もしばらくここに滞在したいの」

「いや、なんでそうなるんだ?」

「私がここで暮らして貴方たちに危険性がないと判断すれば、貴方たちはここで暮らし続けることが出来るわ」


 そんなの絶対に許せない。ノアはそう言おうとして、でも言えなかった。


「それは……!」


 冬真の目があまりにも輝いていたからだ。恐らく彼の言う「メインシナリオ」の予感を感じ取ったのだろう。自分の好奇心を満たすためにどこまでも突き進む彼らしい。

 だからノアはもう何も言うことが出来なかった。


「あーもー、好きにしたらいいよ」

「ほ、本当に? トウマも?」

「俺も全然」


 そして、奇妙な同居生活が始まることになった。



二人の朝は早い。日が昇ると同時に起きて、新たな住人の存在を認識した。


「……起こすか?」

「当然ですよ」


 ノアはにんまりと笑うと、勢いよく手を振り下ろした。


「っ!?」


 腹に強い衝撃を受けたルシアが辺りを見回す。冬真は、何もなかったかのように微笑むノアから一歩離れた。


「うう……今のは?」

「……天変地異だよ」


 かなり苦しい言い訳だったが、ルシアは首をかしげるだけだった。


「そう。で、私は何をしたらいいの?」

「じゃあ俺と……」

「私と!」


 二人の間にノアがサッと入り込んだ。


「いいい今から私は山の探索に行くので着いてきてね! 先輩はいつも通り魚でも釣ってきてください!」

「いつも俺そんなことやってないけど」

「何言っちゃってるんですかあっははは! さ、行くよルシア!」


 強引に手を引っ張り、ノアは暴風のように去っていった。残された冬真はというと。


「なんなんだアイツ……」


 後輩の異変に怯えていた。



 どうしようどうしようどうしようどうしよう……!


 ノアは焦っていた。ルシアが来てから自分の態度は明らかにおかしくなっている。

 今まで隠し通してきた気持ちがバレてしまわないか不安だった。

 ひとまず冬真から離れるために全速力で走ってきたのだが、顔の熱は全く引いてくれなかった。


「ううううう……」


 どうしようもない感情を発散しようと手当たり次第に魔物を狩っていると、


「やっと追いついた……ってノア何してるの!?」

「魔物狩り」


 息を乱すルシアはやはり美しかった。

 ここまで走ってきたせいか赤く染まる頬すら彼女を際立たせるためのもので、全部自分にはないものだ。どうしようもない無力感を感じて、ノアはため息混じりでルシアを振り返った。一方、無傷どころか呼吸さえ乱れていない少女と魔物の山を交互に見つめて、ルシアは息を呑んだ。


「貴方、本当に何者?」


 震えたその声を、少女は無感動に受け流した。


「答えて」

「別に。通りすがりの旅人って言ったじゃん」

「そんな訳ないでしょ!?」


 それなりに名の知れた騎士である自分をたやすくさばく技量、魔術で補強していた剣を簡単に打ち砕く力、さらには大量の魔物を一瞬で倒してみせた。


「貴方ほどの実力を持つ『人間』はいないわ」

「……どういうこと?」


 含みを持った言葉にノアは眉をひそめた。


「貴方、もしかして神なの?」

「は?」


 予想斜め上の言葉に、ノアはますます意味がわからなくなった。それを見たルシアも首をかしげる。


「待って待って、神様がいるの?」

「え、知らないの?」

「知らないよ」

「そんな……」


 ルシアの説明によると、この世界には「神」なる存在がいるらしい。神は人間にはとても扱えない魔力を持ち、それぞれの領地をめぐって争い合っているそうだ。


「そうなんだ。私、昔から山奥で暮らしてきたから」


 田舎に住んでいたので嘘はついていない。


「そうなの……」


 ルシアは申し訳なさそうに頭を下げた。


「ごめんなさい。人間じゃないなんて言ってしまって。本当にごめんなさい」

「え!?」


 驚いたのはノアの方だった。真剣に頭を下げるルシアをなんとかしようと手をワサワサと動かした。


「いやっ、別に全然! そう全然気にしてないし! むしろ教えてくれてありがとう的な!」


 奇妙な動きをする彼女を見つめて、ルシアはふわりと笑みをこぼした。


「そう、ありがとう」


 魔物を担いで戻っていく彼女を、ノアは心底不思議そうに見ていた。


「人間じゃないなんて言って、ごめん……か」


 その赤い瞳に、さっきまでの敵意はなかった。


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