4、やまごもりにっき
神の生け贄兼犯罪者の俺と共犯者であるノアはシャバには出られないため、この山でしばらく生活することにした。現役女子高生であるノアにはキツイだろうが、そこは死ぬ気で耐えてもらう。
「まあそういうことなんだけど、お前大丈夫そ?」
「ああ、むしろご褒美までありますね」
「お前野生児?」
「そうかもしれません! そういえば、私はなんにも持ってないですけど、先輩はどうですか?」
「俺か? ふふ、見てみろ」
「わあっ! 霊山1ヶ月生活で使ってたサバイバルナイフ……」
「はっはっは、これでここでのサバイバルも余裕だ」
オカルト研究同好会ではしょっちゅうこんなことはしていたからな。元々異世界転移対策で始めたんだし楽勝だろう。
かくして俺たちのサバイバル生活が始まった。
1日目
(ノアが)走り回って川を発見。これで水の心配はなくなった。濾過と煮沸消毒をして飲んでみたが体調不良などはなし。川から少し離れた森で生活することにする。今日は大木の根元で一泊。ノアは徹夜していた。
2日目
夜の間に不審な鳴き声がしたので今日は1日森の探索。鳥と熊を発見。これで食糧には困らない。今日の朝食は適当な山菜(元の世界と変わらない見た目、味)。食虫植物も発見した。食べてみたがあまり美味しくなかったので採集はしなかった。帰るとノアが三本ほど木を切り倒した……殴り倒した?らしい。素手で。夕食はそこら辺に生えてた山菜と焼き鳥。気候と生えている植物が一致しない。もしかしたらなんでもアリなのかもしれない。そしたら冬でも暮らせる可能性。
3日目
生活が安定してきたので水浴びでもしようと思ったら先客のノアを発見。ばっちり目が合ってしまったので今日が命日かもしれない。だが本人は今日も元気に獣狩りに行っていた。木も順調に殴り倒しているようだ。これはそろそろ簡単な住居が作れるかもしれない。
4日目
ノアと探索に行く。オーク《豚人間》らしきものを発見したが、ノアの一撃に沈められる。食べるのはまた今度にして生け捕りにした。しばらくはコイツの解析をしよう。今日の夕食は熊肉。どうにかして塩が欲しいと思ったら、サバイバルナイフに少量入っていた。さすが超多機能。
5日目
サバイバルナイフのライターの電池がいつ切れるかわからないので、ノアの超高速手のひら擦りで火を付ける。狩りは任せてオークの解析に取り掛かる。もしかしたら食べられるかもしれない。今日の昼食は焼き魚。やっと一日三食食べられるようになった。おやつが出る日も近い。
6日目
ついに家が完成した。といっても真四角だけど。ノアが作った丸太を、オークたちが持っていた武器で乱暴に固定しただけのものだ。ノアが素手で打ち込もうとしていたがさすがに心配なのでナイフのカナヅチ機能でやった。めちゃくちゃ感謝された。今日の夕食はオーク。何から何までこいつらには本当に感謝している。
7日目
朝起きたらノアが近くて叫ぶ。朝食はぶどうジュースもどきに何かの卵のオムレツ。作り方はオークの棍棒を焚火で熱しながら、少しずつ卵を垂らしていくだけ。思ったより簡単だった。そもそも心霊スポットサバイバルには身一つで行くから、棍棒を持ったオークがいるだけありがたい。それから鳥型の魔物を発見。今日はパーティーだ。
8日目
ノアが街に降りていった。金は太陽仮面から奪ったものがある。久しぶりにパンにありつけて満足だ。ハムも買ってきてくれた。それからこの山に住む怪物の噂が立っているらしい。危険なので早く駆除しないと。
9日目
暇すぎて川で延々と水と日光を浴びているとノアに発見された。目が合った瞬間隠れたが気まずい。慌てて弁明のために家に帰る。そのあと数時間は避けられた。そしてなんと今日はおやつがある。ノアが買ってきてくれたクッキーだ。そして昼食は山菜と鳥肉(多分)のピリ辛焼き。俺が作った。ノアに一度やらせてみたところダークマターが錬成された。
10日目
丸太を削って鍋を作った。今日はこれで鍋パをする予定だ。ノアが狩ってきてくれたオーク、それから鳥肉をつみれにしたもの、適当な植物に卵と適当な調味料を入れる。これが中々美味しかったが、やはりシメには雑炊が食べたくなった。ちなみにノアはラーメン派らしい。どちらの方が美味しいかしばらく争い合って、腕相撲で決めることにした。なぜか俺が勝ってしまった。
今日で14日目。始めは楽しかったサバイバルも数日経てば慣れる。もちろん可愛い後輩とひとつ屋根の下は緊張するが、向こうの反応が酷すぎて慣れた。部屋に入るだけで顔が真っ赤って何事なんだよ。そんなに男子耐性ないのか。
まあつまり、何が言いたいかっていうと。
「暇だー……」
めちゃくちゃ暇だ。正直「ドキドキ!地獄の百物語実証サバイバル!」の方が楽しかった。クッキーを頬張りながらまどろんでいると、ノアが帰ってきた。
「おかえりノア」
「ただいまです。あの、少し報告が」
「ん?」
「なんか、外に剣を持った女の子が」
テンプレな展開に俺は笑みを浮かべた。