手をつなぐ
少し肌寒くなる10月の始め。私はある男に恋をした。
「ゆんち、なにしてんのさ」
窓の下を眺めるあたしに、いつものように声を掛ける男。
それがあたしの恋の相手。
「べっつに~。なんにも?」
「あー、まぁたちーくんでも見てたんでしょ~」
こいつはいつも、あたしの恋の邪魔をする。
「でもだめ~、ゆんちは俺のだから」
こんな調子でいつもいつも、邪魔をする。
「いつからあんたのになったのよ」
「ずぅっと前から。俺のだよ」
無邪気に笑いながら、あたしを見る。
呆れた顔をして見せて、肩で大きくため息。いつものこと。
「ゆ~んち、ちゅーしようよ」
「は!?」
目を閉じて、口を尖らせた彼は、どんどん迫ってくる。その表情が可笑しくてあたしは思わず吹き出した。
「何で笑うんだよ」
ぱちっと目を開き、むっとした表情であたしを見つめる。
「だって、あんたの顔可笑しくって」
ひとしきり笑うと、あたしは満足して、帰り支度をすると席を立つ。
ぽつんと残るあいつに、あたしはドアのところから振り返って声を掛ける。
「帰らないの?こーた」
声を掛ければ明るい笑顔、犬のように尻尾を振っているように走ってくる。
家に帰ればご飯のイイ匂い。すぐに着替えてご飯を食べる。
お風呂に入って、部屋に戻ると、こーたが窓からお休みのあいさつをあたしに向けて、イツモどおりにした。あたしもそれを返すと、カーテンを閉めた。
「なんで、あんな顔するのよ」
考えるだけばかばかしい。
あんな態度はこーたにしか出来ない。
いいところも悪いところも全部知ってる。
かっこよかったこともかっこ悪かったことも全部知られてる。
そんなこーた以上の男がいるとでも・・・?
考えるだけばかばかしい。
「明日の帰りは、手でもつないでやるか~」
喜ぶこーたの顔が目に浮かぶ。
果たして実行できるのか?ゆんちの明日はどうなるやら・・・。
そんなことを考えながら、今日を終える。
また明日、こーた。おやすみなさい。