チームワーク
逸美は入隊してさほど経たないうちに、「みんなの妹」みたいな位置に自然にはめ込まれていった。
デ・ユウラン隊長は逸美の「能力」は認めながらも、まずは補佐的役割に配置し、隊務に慣れさせることにした。
なんといっても、まだ12歳の子どもだ。
チームプレーの要領をつかんでもらわないと、突出した「能力」は実際の戦務では下手をすれば「害」になることもある。
デ・ユウラン隊長は最初、逸美が能力のわりに「端役」に就けられることに不満を抱くんじゃないかと心配したのだが、この子はそういう位置づけに不平を言うようなタイプではなかった。
むしろ逸美は、目を輝かせて先輩たちのチームワークの見事さに感嘆していた。学校の訓練とはまるで違う!
1人1人のエスパーは、1つ、ないし2つくらいの能力しか使えない。しかも多くの隊員は、2つ以上の能力を使うにはESP増幅装置を必要とした。
必然的に装備も重くなるから、軍人らしい肉体的な体力も必要となる。もし逸美が7つの能力(今ではエネルギー吸収バリアも加わっているから)を使える超エスパーでなければ、到底この子どもの体力で務まる仕事ではない。
ところが、彼らがチームになると、まるで1人の超エスパーの分身ででもあるかのように、複数の能力を縦横無尽に使いこなして動くのだった。
「すっご——い!」
チームワークの大切さ、仲間を信頼する大切さを、乾いたスポンジが水を吸収するようにして逸美は吸収していった。
軍の「仕事」というのは、ほとんどが毎日「訓練」である。
それはそうだろう。そんなに頻繁に「出動」しなければならないような事態があっては、SUN恒星系の各惑星政府としてもたまったものではない。
軍隊などというものは、趣味のように訓練だけしている無駄飯喰らいがいちばんいいのだ。
・・・が、実際はそうも言ってはいられない。
たしかに、30年ほど前に1つの銀河連邦が成立してから、星間戦争というものはなくなった。
しかし、この時期はまだ、連邦軍に吸収されなかった「暴力好き」たちが、海賊やらテロ組織やら、カルトに雇われた軍事ビジネスやらになって、そこら中を跋扈していた時期でもある。
アース支隊も、週に1度くらいのペースでは「出動」していたし、そのうち、4〜5回に1回はエスパー部隊にもお呼びがかかった。
逸美の初陣は、入隊して1ヶ月ほど経った時だった。
この頃には、デ・ユウラン隊長も逸美をチームのどこかに補佐的に入れることを諦め、自分の傍に「後詰め」として置く、という配置に変えていた。
訓練を見ている限り、テレパスやテレキネシスといった単独の能力チームに、たとえ補佐といえども、逸美を混ぜると、反応が早過ぎたり、能力が強過ぎたりしてバランスが取れないのだ。
「すみません・・・。」
と、逸美はしょげるが、それは仕方がない。プロのサッカー選手に小学生のチームに入って上手くやれと言うようなもので、力の加減ができるようになるまではチームワークをかき乱してしまうだけになるだろう。
むしろ、逸美のオールマイティーな能力を活かして「後詰め」にする、という発想は的を射ているかもしれなかった。
チームが崩されそうになった時や、最後の詰めの時などに、タイミングを見てデ・ユウラン隊長が逸美を投入するのだ。
逸美の能力から計算すれば、考えようによっては、20人規模の新手のチームが控えているようなものだ。
「それを試してみる。」
と、隊長は出動前に、全員に周知した。
訓練で足を引っ張ってばかりの逸美は、申し訳なさそうに隊長の傍でぴょこんと頭を下げた。
出動要請は、惑星マーズの警察組織から来た。
テロ集団『赤い星の神』のリーダーの潜伏地を突き止めたのだが、敵側に強いエスパーがいて踏み込めず、軍のエスパー部隊に支援要請がきたのだ。
部隊は、アースからマーズへと宇宙船で移動する。逸美にとっては、宇宙船に乗るのは初めての経験だった。
かなりテンションの上がっている逸美を見て、隊長も他の隊員たちも、「やっぱりまだ子どもだな」と、少し微笑ましいような気分で眺めていた。
どれほど能力が高くても、まだ12歳なのだ。
デ・ユウラン隊長も、今回はほとんど「実戦の見学」だけにさせて、最後の詰めのところで少しだけ参加させてやろう——と考えていた。
もちろん、他の隊員もイツミを当てにしてはいない。
この時点では、逸美はまだエスパー部隊のかわいいマスコットだった。