表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/27

奇跡のエスパー

 2つの爆弾はかろうじて取り外すことができ、テレポーターがはるか上空にテレポートさせることに成功した。

 速度計が速度を見失ったため爆弾はテレポート先で爆発し、空にその光が見えた。5秒ほどしてから、音が到達する。


 だが、残り3つが手間取っている。列車のスピードが209kmまで落ちてきた。

「一旦、離れろ!」

 ガウ・カルワ隊長の指示が5組のエスパーに届いた。同時に24人のテレキネシスが、テレポーターによって列車の各車両の屋根の上に運ばれてきた。

「先行のテレキネシスは、全力で破片をコントロールしろ! 乗客の被害を最小限にするんだ! 後からの24人は、それぞれ受け持ちの車両をコントロールして、脱線を防ぐことに集中しろ!」


 その時だった。先頭車両の屋根の上に、年端もいかない少女が現れたのは——。

 紅いショートヘアを後ろからの風になびかせている。瞳が黄金きん色に光っている。


 突然、残された3つの爆弾が、黒い球体に包まれた。

 そのまま、列車はブレーキでもかけたように減速してゆく。

 199km、195km、188km・・・・


 爆発は起きない。

 やがて黒い球体が消えると、爆弾の破片らしきものが、さらさらと軌道上にこぼれ落ちていった。取り付け部の部品の一部が列車の車体にぶら下がって、風にあおられてカラカラと鳴っている。


 何が起こった?


 その場の全員が虚を突かれたようになっているうちに、いつの間にかあの少女の姿は消えていた。


 報告を受けたガウ・カルワ隊長は、最初、信じられなかった。が、その現象は話に聞いたことがある。

 エネルギー吸収バリア。

 理論的には可能だとされているが、まだ実用段階のそれを作ることのできるエスパーはいないと聞いている。

 軍の研究施設内で、数人がESP増幅装置の力を借りて、かろうじてそれらしき現象を引き起こすことに成功したばかりのはずだった。


 だとすると、それをピンポイントで3つも作って爆弾を無化したのは誰だ?

 直前に列車の屋根の上に現れたという、紅い髪の少女? 黒いバリアの消滅とともに消えてしまったという謎の少女?





 逸美は列車の無事を見届けると、すぐに教室の自分の席にテレポートして戻り、先生に深々と頭を下げて謝ると、ことの顛末を包み隠さず話した。

 無断で出かけてしまったことを叱られるかと思ったが、先生は意外にも「ああ、それは良いことをしたね。」と言っただけで、また、もぐもぐとした喋り方で授業の続きを始めてしまった。


 逸美の余人を超越した能力は、学校中の先生が知っている。その事態なら、この子でなければ止められなかっただろう。

 何百人の乗客の命を救ってきた児童を、「許可なく授業を抜け出した」などと言って叱るほど、惑星史の先生は偏屈者ではなかった、というだけだ。

 逸美にしても、爆弾を無化したのを見届けてすぐテレポートして戻ったのは「授業を無許可で抜け出しちゃったから、早く帰らないと叱られる」と思っただけで、別に秘密にしたり隠したりする意図はなかったし、その必要性も感じていなかった。


 ところが、軍は初めそのように受け取らなかった。

 謎のエスパー少女が現れて瞬時に事件を解決し、名乗りもせずにすぐに消えた! しかも、まだ研究途上でしかないエネルギー吸収バリアを、3つも正確に作って爆弾を無化した!

 どこの、何者だ !? なぜ、隠れるようにして消えた?

 味方なのか? それとも「真実の誇り」に対抗する、未確認のカウンター勢力か何かなのか?

 見かけは少女に見えても、中身はそんな年齢ではないのかもしれない。連邦が把握できていないエスパーだとすると、潜在的な脅威ではないのか?

 連邦軍SUN恒星系の方面隊全体が、大騒ぎになった。本部の研究部門からも、極秘の問い合わせが方面隊総司令の元に来た。


 当の逸美はそんな騒ぎになっているとも知らずに、今日も高等部の教官相手に新しいESPスキルの開発に夢中になっていた。

 自分の持つ能力の可能性を試したい——というのは、どんな子どもにとっても根元的な欲求なのであろう。


 だから、軍が逸美を見つけるのは至極容易なことであった。

 どうやら、アースの中央エスパースクールにいる11歳の少女がそれらしい。授業を抜け出して、助けに来ただけらしい。すぐに帰ったのは、単に「授業中」だったから、らしい。


 方面隊総司令のファリル・カリ・デ・ウツギは報告を聞いた途端、笑い出した。

「ずいぶん、いろいろ見当違いな大騒ぎしてたな、私たちは——。」

 笑い納めてから、デ・ウツギ総司令は「しかし」と言った。

「この子は、ぜひ軍に欲しい。」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ