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イツミ外伝 ーオリジナルー  作者: Aju


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イツミ

 逸美が恥ずかしがったので、マシンが設置された部屋からは、スラ・グスル医師と変換器の技術者を除いて男性陣は締め出された。

 逸美がポッドに横たわってから、クメリアが体に巻いたバスタオルを取ってやった。

「1時間くらいかかるらしいから、退屈だったら寝てていいよ。終わったら、わたしが最初にバスタオル持って来てやるから。」

「ありがとうございます。サシャ・タミヤさん。」

 そう言う逸美の顔も体も、あちこちが斑点状にドロドロと溶け始めている。


 ケラ・ダハド研究員らがゲノム解析は済ませていたので、切断箇所のプログラムは呆れるほど簡単にできた。

 ここまで分かっていながら、こいつらはイツミを凍らせようとしたのか!

 スラ・グスル医師はケラ・ダハドを一発殴ってやりたくなったが、逸美がその溶けかかった皮膚の顔で「ありがとうございます。」と笑顔を向けたとき、ケラ・ダハドが少し赤くなったのを見て、こいつにも羞恥心とか良心みたいなものがあるのか・・・と思いとどまった。

 だが、こいつとはウマが合いそうにはない。


 ポッドのフタが閉じられて、マシンが動き出す。

 1時間。ケラ・ダハドとその助手はマシンの作動具合を監視し続け、スラ・グスル医師は逸美のバイタルチェックの画面を真剣な表情で眺め続けていた。

 クメリアは、ただ祈るしかない。


 やがてマシンの作動音が止まり、終了を知らせる小さな音が鳴った。

「無事終了しました。」

 ケラ・ダハドがそう告げると、ポッドのフタが開くより早く、クメリアがバスタオルを持ってポッドに駆け寄った。

 プシュッと言う音が聞こえて、ポッドのフタがゆっくりと開いた。


 逸美は目を開いていた。 その瞳は・・・黒。 髪は・・・濡れたカラスの羽のように艶やかな黒。それは、彼女の属する民族に多いごく普通の色だった。

 クメリアは逸美の体にバスタオルを巻いてやる。

「どう、具合は?」

「うん。痛い・・・。」

「痛い !? 」

 表情がこわばったクメリアに、スラ・グスル医師が後ろから声をかける。

「痛いなら、大丈夫だ。どれ、見せてごらん?」

 逸美の皮膚の傷を覗き込む。

「ふむ。かさぶたが出来かかっている。もうヒーリングが効くと思うから、施してみてくれますか、サシャ・タミヤさん?」

「あ、はい。」

 クメリアがヒーリングを始めると、皮膚の傷がみるみる治ってゆく。

「効いてる! 効いてる! きれいになったよ、イツミ。ほら!」

 クメリアが手持ちの鏡を逸美に見せた。

「わっ! 真っ黒!」

 それから、本当に久しぶりに、逸美に心からの笑顔が戻った。

「ありがとうございます。サシャ・タミヤさん。スラ・グスル先生。ケラ・ダハドさん。」

「よかった!・・・よかった、イツミ!」

 クメリアは逸美を、笑顔ごと抱きしめた。ぼろぼろと涙があふれて止まらない。


「さあ、外で待ってるみんなに変化したイツミをお披露目に行こう。」

 スラ・グスル医師が満足そうな笑顔で2人を促した。

 少し離れた場所で、ケラ・ダハド研究員が気まずそうにしている。



 逸美はエスパーではなくなった。NESPになったわけではないが、せいぜい小さな紙片を動かせる程度の能力でしかなくなったのだ。

 逸美は除隊することにした。

 メリー・ベール支隊司令は、軍の事務職のポジションも用意できると言ってくれたが、逸美は

「高等部に進学してみたいですから。」と言った。

「そうだよね。考えたら、あんたまだ普通なら学校行ってる年齢だもんね。」




 その後の逸美の人生には、この時期ほどの波乱に富んだ出来事はない。まるで、救った命の数だけ神様がご褒美をくれたみたいに、穏やかな生涯を送る。

 3人の子宝に恵まれ、母親として忙しくも幸せな日々を送りながら、一方で古代文学にも取り組んだ。

 夫であるサヴァンとともに、気鋭の電子アーティスト、シグル・ドル・タイ・カズラの美術展に行ったり、劇団アルカディアから招待を受けたりして、文化的にも充実している。

 イツミ・スズ・ハス・アードの名も古代文学の研究員として、少しはアースで知られた名になったから、聞いたことのある読者もいるかもしれない。

 そうそう、アルカディアの脚本の1つをハス・アードが書いていることはあまり知られていないから、ここに添えておこう。



 一方、軍の研究所に残された逸美の断片=爪や血液サンプルを解析し続けた結果、ケラ・ダハド研究所長は20年かけて超兵器『イツミ』を完成させる。

 それは、時の連邦大統領ジャッキー・セラ・クレールの指示によって、連邦軍の極秘中の極秘に指定され、ごくごく少数の関係者以外の目から完全に隠された。

 その後、学術院の院長などの名誉職をいくつか転々として、悠々自適の老後を送るこの人物も、この時期に自分が何をしていたかについてはついに寸毫も漏らすことなくその生涯を閉じる。

 この男もまた、ある種の「才能」の器であったのかもしれない。




        了




最後までお付き合い、ありがとうございました。


この後、また「イツミ」シリーズを再開します。

次は、レイチェル・ザキ・シークの物語。

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