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イツミ外伝 ーオリジナルー  作者: Aju


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23/27

 逸美の体に異変が起きたのは、15歳の誕生日を迎えて間もない頃だった。


 その日、船外訓練を終えて戦闘艦のデッキに戻ったあと、逸美がヘルメットを取ると紅い毛髪の束がくっついていた。

「え? なに? 髪の毛、抜けた?」

 逸美の呟きに、ダンクが逸美のヘルメットを覗き込んだ。それから逸美の頭の方をしげしげと見て、

「円形脱毛の跡は見えないぞ。安心しろ。」

と言った。

 逸美は手で髪を梳いてみたが、新たに毛が抜けてくるようなことはないようだった。ちょっと不安そうな顔をしている逸美を元気づけようと思ったのだろう。ダンク軽口をたたいた。

「イツミでも、脱毛症になるほどストレス抱えることあるんだな。」

「でも・・・って?」


 だが、コトはそんな漫談みたいなやりとりで済むような話では収まらなかった。

 次に派手なESPを使う訓練が終了した跡、今度は逸美の指先の皮膚が、ぬるっ、と剥けたのだ。

「うわっ!」

 すぐに自己治癒ヒーリングが働いて新しい表皮が生成されたが、剥がれた表皮の方は、なんだかぬるぬるして気持ちが悪い。

 さすがにこれは笑って済ませられる話ではなかった。

「イツミ、すぐ病院に行きな! その皮膚も持って。こんな症状の病気は見たことも聞いたこともないけど、ヤバいもんだといけないから——。」

 クメリアが真剣な表情で言う。逸美も忠告に従って、剥けた皮膚をクメリアがくれた小さなサンプル袋に入れて軍病院へと向かった。


 逸美は隔離病棟の個室に入れられた。未知の感染症である可能性を考慮してのことだ。

「とにかく、検査結果が出るまでは我慢してね。何か観たいコンテンツとかあったら、そこのモニターでリクエストできるから。」

 防護服を着た看護師のお姉さんが優しく言ってくれたので逸美も笑顔を返したが、こみ上げる不安は隠せていない。


 わたしの体・・・どうなっちゃったんだろう?


 通常のバイタルには、特に異常は見られなかった。体は別に、痛くもしんどくもない。ただ、ひどく不安だった。


 だって、皮膚が・・・、ぬるっ、て取れちゃったんだよ?



 アースエスパー隊の本部や宿舎は一応、念のために消毒され、ここ1週間で接触のあった隊員は軍務から外され、個室内に自主隔離措置が取られた。

 各種の検査の結果、どうやら感染症ではないらしい、と判るまでの1週間、アースエスパー隊にとっては不安な日々が続いた。


 イツミは大丈夫だろうか?

 本人が一番不安だよね——。



 感染症の可能性が払拭され、逸美が通常病室に戻されたのは、入院から10日経ってからだった。

 面会が許されたため、お見舞い客がどっと押し寄せた。逸美が入院してからずっと、病院近くのホテルに滞在していた両親はもちろん、アースエスパー隊の仲間も入れ替わり立ち替わり病室にやってきては食べ切れないほどの美味しいものを置いてゆき、そして別の人が食べていった。

 その賑やかさに、久々に逸美の表情に曇りのない笑顔が戻っていた。

 10日ぶりに孤独から解放されたのも嬉しかったが、逸美にとって最も嬉しかったのは、キリ・アード副艦長が来てくれたことだった。

「ハス・ワタリ殿、お元気そうでよかった。隔離病棟に入院したと聞いたときには心配しましたよ。」

 その声を聞くと、本当にもう元気になったような気がする。


 実際、あれから同じような症状は出ていなかった。

 ただ、原因もわからない。


 病院ではさまざまな病理検査を行なっているが、今のところ、これといった病因はつかめていないようだった。

「一旦、退院して様子を見ますか?」

 主治医は逸美と両親にそう話し、逸美もその提案に乗ることにした。久しぶりに両親とゆっくりもしたいし、隊務だって滞らせてしまっている。



 明日は退院、という日の午後、逸美は退屈まぎれにお見舞いにもらったぬいぐるみや果物を、子どもの頃みたいにESPで踊らせて遊んでいた。

 その時だった。次の異変が起こったのは——。


 爪が!


「うわああああ!」

 右手中指の爪が、ずるっ、と溶けてぶら下がったのだ。


 逸美の悲鳴に、看護師がとんできた。

「つめ! つめ! 爪が・・・!」

 右手を顔の高さまで上げて、逸美が顔色を失っている。その右手の中指から、爪が半分溶けるように糸を引いてぶら下がっている。

 床には割れた果物やひっくり返ったぬいぐるみが散乱していた。


 看護師は逸美を支えるようにしながら、緊急コールで医師を呼んだ。



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