戦場の天使
この頃の前後に、逸美は長官賞を2度受けている。
1つは13歳の終わり頃、SUN恒星系で最大の暴力組織『ダークマター』の首領を生かしたまま捕らえた功績で——。もう1つは14歳になったばかりの時に要請されたラカン出張戦闘で、アースエスパー隊のチームと共に、そのあたりの宙域を我が物顔に荒らし回っていた海賊船団を壊滅させた功績で、チームとして受けたものだ。
セラ・クレール連邦軍長官から直に軍服の胸に勲章を付けてもらうときは、さすがのテンネンも緊張でカチカチになっていた。
それでも、威厳を持った微笑で勲章を授けるセラ・クレール長官の目の奥に、職務的な微笑みとは違う「笑い」が潜んでいることに逸美だけは気がついていた。
あとで考えてみて、たぶん——、と逸美は思った。
普段のわたしに似合わず、超真面目な顔でかちんかちんになっていたのがバレて可笑しかったに違いない。
そのことを帰りの船でジライドに言ってみると、
「ああ、それならオレも後ろで見てて吹き出しそうなの我慢するのが大変だった。」
と笑った。
「だいたい、おまえ。手と足が一緒に前に出てたぞ。」
「ええっ??」
この頃になると、辺境にあるにもかかわらず、アースエスパー隊の名は連邦中に聞こえていた。
もともと優秀な部隊の1つとして数えられていたアースエスパー隊だが、逸美が入ってからというもの、その戦績は連邦の中でも群を抜いたものになった。
アースには、バケモノみたいなエスパーがいるらしい。あの『ダークマター』の首領を、たった1人で殺さずに逮捕してしまったと言うじゃないか。
アースエスパー隊はSUN恒星系だけでなく、連邦のあちこちの支隊から応援要請を受けることが増えた。
アースエスパー隊の活躍でSUN恒星系での「事件」が減ったこともあり、デ・ウツギ総司令は、積極的に要請に応じるようデ・ユウラン隊長に指示している、という事情もある。
もちろん、派遣されるチームには必ず逸美が含まれている。派遣先の支隊もそれが目当てであり、そしてチームは常に期待以上の働きをして凱旋してきた。
中には、自分たちだけでも対処できそうなのに、わざわざ派遣要請をしてくる支隊司令官もいたようだ。
その超エスパーを一目見てみたい、という野次馬根性だ。
さすがに支隊司令官ともなれば一応そのへんは上品に韜晦して見せてはいるが、部下の一兵卒たちは、その野次馬根性ぶりを隠そうとはしない。
「燃えさかる炎のような真っ赤な髪だというぞ。」
「アースに棲息する幻の野獣『タイガー』みたいな黄金色の目をしてるらしいぜ。」
が、派遣されてきたのは彼らが想像していたようなバケモノなんかではなく、どちらかといえば「美少女」と呼ぶべき14歳の明るい少女だった。
その少女が、兵士たちの生命の危機に際して必ず彼らを守った。一方で激しいESPの戦いを繰り広げていながら、同時に他方では「これは死んだ!」と思うような場面で、そういう危機にある兵士1人1人のためにバリアを張ってくれるのだ。
その「守護」は敵味方さえ選んでいない。
その目配りとESPの圧倒的な能力は、これまで彼らが持っていた「エスパー」のイメージを塗り替えてしまった。
やがて、誰言うともなく「ハス・ワタリ」と言う少女の名前は、「天使」という下級兵士たちだけの隠語で呼ばれるようになっていった。
「天使だ! 天使が現れた! もう、大丈夫だ——。」
休暇で出身惑星に帰っている時、親しい人に涙ぐみながらこんなふうに言う兵士もいたという。
「オレは、戦場で天使に会った——。だから、今ここにいられるんだ。」
そういう呼び名を逸美自身は知らないのだが、各地に派遣されるこの状況自体は歓迎していた。
軍は、たしかに暴力装置には違いない。でも、その暴力装置の中にいればこそ、救える命がある——。




