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イツミ外伝 ーオリジナルー  作者: Aju


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19/27

キャプテン・シャーロック(外伝の外伝)ー浮いた男ー

 昔っから、人の輪に入れない。

 話をすれば場違いで、他の人とは発想の場所や考え方の筋道がまるで違うみたいで、誰とも話が合わない。

 たまに誘ってくれる級友はいたけど、俺が話に加わるとどうやらその場の話題とは全く違うとんでもない方向の話をするらしく、いつも話が途絶えてしまった。

 俺には、彼らと自分の話の方向の違いがよくわからない。どうやら、俺の頭はそんなふうな「欠陥品」らしい。

 無理に話に加わろうとすれば、からかわれるかウザがられるだけだった。だから教室では、いつも一人で隅っこにいて空想ばかりしていた。


 俺は、宇宙をかける一匹狼の海賊で、自由であることを最も大切にし、どんな組織とも組まず、時にそのために巨大な海賊組織とも刃を交えて戦い続けている。

 俺の船は、宇宙一速く、宇宙一美しい。その船を駆って、メジャーな海賊組織だけでなく連邦軍でさえ手玉にとっているのだ。

 どこにも根拠地を持たず、常に漆黒の宇宙に浮かび、たまにどこかの惑星に降りれば、夜の酒場で美女たちにモテモテだった・・・・・


 しかし現実の俺は、部屋の中で手作りのアイテムを使い、独りコスプレして空想しているだけのガキでしかなかった・・・。


 そんな俺は、中等部を中退してアルバイト暮らしをするうちに、なんとなく裏の世界に足を突っ込んでいった。

 そこは危ない世界だったが、同時に、あぶれ者同士、というような感じの「居心地良さ」もあった。決して本当の「仲間」ではないが、「仲間」のような扱いを受けることもあった。

 この頃には「自分がオカシイ」ということには気付いていたから、他人とはなるべく話さないようにしていた。

 裏の世界で浮き上がってしまうと生命いのちに関わりかねない、ということくらいは分かっているからだ。

 そのうち、なんとなく「あいつは変わってるが、秘密を守れる寡黙なヤツ」というイメージが定着して、便利使いされるようになった。

 麻薬の売人や運び屋として重宝され、収入も増えていったが、俺は相変わらず「便利で安全なヤツ」という評価を受け続けていた。


 どの組織にも属さない、いわば「フリーランスの運び屋小僧」だったが、それ以上の野心を見せないように、注意深く働いていた。

 どの麻薬組織の利権にも興味を示さないニュートラルなヤツ。そういう場所から外に出ないように気をつけ、目立たない小動物のような自分を演出し続けていた。

 だから、この界隈では「変わったヤツ」だとは思われていたが、「危険なヤツ」だとは思われていないようだった。


 こういう世界の住人は、少し金ができると夜の街で大きい顔をしてみたり、豪華なクルーザーを買ってみたりするものだが、俺はそういうことに金は使わなかった。

 俺には、もっと大きな野心がある。つまらないことには金は使わないのだ。



 やがて、その野心が叶う日がきた。


 ついに、貯めた金で自分の宇宙船ふねを持つことができたのだ。ビジネスクラスの安い中古艦だったが、エンジンを付け替え、防衛のためのレーザー砲も増設した。海賊艦らしいデコレーションも施した。

 宇宙一美しく、宇宙一速い艦にはほど遠いが、それでも自分の船を持つことができたのだ!

 俺はこの艦で「仕事」をする。いずれ、もっと金を貯めて、本当に宇宙一速く、宇宙一美しい船を手にする。

 子どもの頃の、あの空想がついに「現実」になるのだ! 笑いたければ笑え! 男の夢なんて、いつだってガキの夢だ。

 そうさ。俺は「変なヤツ」だよ——。そういうふうに生まれついたんだよ。最近知ったNET知識じゃ、ナントカっていう障害らしいが、そんなもん知ったことか!

 これが俺のアイデンティティーさ。本当の俺だよ。


 艦の名前は『アルパカディア号』! 自由の象徴だ! 俺の名前は『キャプテン・シャーロック』! 自由を愛する孤高の宇宙海賊だ!

 NETで「古代文学」の項を探って気に入った単語を拾い出しただけだが、いい響きだろう?

 中等部中退の俺には「古代文学」なんて読めはしないが、単語くらいなら、いくつかは読めるのだ。その中で、響きのいい単語を集めてみた。「ハーロック」という宇宙海賊の物語は少し分かったから、それにあやかってみた。

 俺もいつか、こんな海賊になってみたい。そして今、俺は、サナギから蝶になろうとしている!


 さすがに、取引相手と会う時は「普通の格好」にしたが、艦の中では俺は海賊に扮していた。やるなら徹底的に俺自身が納得するまでやってやるさ。

 どうせ俺は「変なヤツ」なんだ。

 金で雇ったクルーたちは皆、陰で気持ち悪がっているようだったが、構うもんか。この艦の艦長あるじは俺なのだ。この、キャプテン・シャーロックなのだ!


 俺が親からもらった名前はカノンと言うが、その名前はもう捨てる。

「ヘイ、カノン。今、その話はしてねーし。w」「おーい、カノン。ションベン小僧やってみろヨォ。」同級生にからかわれていたあの日々はもう消える。

「カノン。ザダ・ガリアさんとこに、これ届けてこい。」便利な使いっ走りだったあの頃の俺は、もう消える。

 俺は、キャプテン・シャーロック! ゆくぞ、アルパカディア号!



 商売は順調だった。

 事業が軌道に乗るにつれて、俺はだんだんと大胆になっていった。キャプテン・シャーロックの扮装のまま、取引相手に会うようになったのだ。

 もちろん、ビジネスシーンで尊大な態度はとらない、くらいは俺でもわかる。

「おい、カノン。そりゃあ何のマネだ?」と苦笑されても、昔どおり黙って首を傾げて見せるだけだ。

 ただ、新しい顧客には少しばかり接し方を変えていった。

「任せなさーい! 私は、信頼を決して裏切らない! 私は、キャプテン・シャーロック!」

 艦内でのカッコいいキャプテン・シャーロックを、少しずつ表に出していったのだ。実際俺は、顧客の信頼に応えなかったことはない。

 次第にキャプテン・シャーロックの名は、その界隈でも知られるようになっていった。


 「クルーになりたい」という希望者も現れ始めた。彼らはみんな、海賊に扮して、俺と同じように顔にメーキャップをして、俺の前にやってきた。

「ぼ、ぼ、ぼ、僕は、食事を作るのが得意です! ど、ど、どうか『アルパカディア号』に乗せてもらえませんか?」

 俺には、彼らの気持ちが痛いほど分かった。みんな、俺と同じように生きづらい思いをしてるんだ。

「ああ、構わない。君が自由を求めているなら、この船は君の船でもある!」


 落ち着きがなくて騒々しいが、いざという時の直感力がすごいヤツ。他人の目を見ると話せなくなるが、メカにやたら強いヤツ。・・・等々。「変なヤツ」が少しずつ、キャプテン・シャーロックを慕って集まってきた。


 俺に、初めて・・・・「仲間」ができた。


 船で運べるものは何でも運んだ。もちろん、麻薬をはじめとする「裏の貨物」だ。ただし、死体についてだけはお断りだ。

 気持ち悪いし、だいたいそういう陰惨な暴力世界にだけは関わりたくなかったからだ。貨物は、あくまでも金目のものだけに限った。

 たまに、転送機を使えない子ども、裏社会の界隈に生息するしかない子どもが、遠くの誰かに届けたいものがあるときには、ついでに運んでやったりもした。

 請け負ったら、必ず届ける。決して捕まらないルートを選択し、顧客の信頼を裏切ることはない。

 それが、キャプテン・シャーロックとアルパカディア号の仲間たちの信条で、それはずっと貫きとおしてきた。

 あのヴィーナス逃亡戦の時までは——。


 いつ、誰から情報が漏れたのか。あるいは、この依頼そのものが罠だったのか。

 目的地ヴィーナスの近くで、連邦軍第7分隊の待ち伏せを受けた。


 それだけなら逃げ切れたかもしれないが、とんでもないエスパー部隊が出てきて、信じられないような巨大なバリアに艦ごと搦め捕られたのだ。


 まずい! まずい! まずい——!!

 仲間たちが不安を抱き始めている。

「君たーち! こんなもので私を捕らえられると思っているのかねェー?」

 こいつらをまた、あの地獄みたいな世間に戻すわけにはいかない。俺は・・・!

 俺は、強くてカッコいい海賊ヒーロー! キャプテン・シャーロックだ!


 だが、天は俺を見放した。

 アルパカディア号の推進口が爆発し、船は推進力を失った。連邦軍のヤツら、これでもかってくらいレーザー弾をぶち込んで、俺の船を穴だらけにしやがった。


 連邦軍に乗り込まれた後のアルパカディア号は悲惨だった。


 仲間たちは、もともと野蛮な戦闘シーンなんかで白兵戦を戦えるような人間じゃない。ここだけが居場所の、社会不適合症候群ばかりだ。俺も含めて——。

 俺はそれでも、仲間たちの手前、強くてカッコいいキャプテン・シャーロックを演じ続けるしかなかった。

 こうなってしまっては、そうする他にどうしようがあるというんだ?

「はぁーっはっはっは! こんなことでキャプテン・シャーロックの自由を奪うことなどできないぞぉ!」


 死ぬかもしれない。たぶん死ぬだろう。

 いやだ! 怖い!

 だけど・・・、あの惨めなカノンに戻るのは、もっといやだ!


 俺はカッコつけながら、銃を撃ちまくった。1発で殺してくれよ——。苦しむのはいやだ・・・。

 このまま——! カッコいいキャプテン・シャーロックのまま、俺は死ぬんだ!


 連邦軍兵士の銃口が俺の胸にまっすぐ向いたのを、まるでドラマのスローモーションでも見るように俺の目は捉えた。

 レーザー弾が連射された。


 死ぬ。


 最後までカッコつけろよ、キャプテン・シャーロック! 仲間たちが見てるぞ!


 その瞬間、俺の目の前にバリアができて、レーザー弾が全てはじかれた。

 ?

 仲間にエスパーはいなかったはず・・・。


 部屋の入り口付近に紅い髪で黄金きん色の瞳をした少女が、俺が見たこともないような真っすぐな眼差しでこちらを向いて立っていた。





 逸美がクメリアに誘われてその更生刑務所に出向いたのは、ヴィーナス追撃戦から3ヶ月ほどした日のことだった。

「友人のカウンセラーから相談があってさ。あんたと会わせてみたい、って言うんだよ。ほら、あのキャプテン・シャーロックさ。本名はカノン・ド・シャイ・ロックって言うんだけどね。」

 逸美は二つ返事でOKした。逸美も知りたいと思っていたのだ。あの暴れまわっていた時のキャプテン・シャーロックと捕まった後の彼の、まるで別人のようなギャップは何なのか——を。

 ただ、難しそうだな、とは思った。

 そんなこと、さすがに正面から聞くわけにもいかないしな——。

「どんなふうに接したらいいんでしょう?」

「いつも通りでいいのよ。いつものテンネンのままで。」

(テンネンのまま、って・・・・)


 会ってみると、シャイ・ロックは捕まった時のあの雰囲気のままの、ぱっとしない男だった。視線を落として、目を合わせようとしない。

 どうやったら、あのキャプテン・シャーロックになるんだろう? この人が。

「えっと・・・あの・・・」

 逸美は、すぐにかける言葉が見つからない。そのうちシャイ・ロックが、視線を落としたままで、か細い声で尋ねてきた。

「君が、あのバリアを張ったエスパーなんだってね?」

「え? あ、はい。」

 逸美がちょっとドギマギしながら答えた。

「なんで、助けてくれたの? 連邦軍のエスパーでしょ?」

「死んでほしくないから。」

 当たり前でしょ、という顔をして逸美が答える。カノンは少し瞼だけを上げて、逸美のその表情を見た。

「俺みたいな変な男を? 連邦軍の邪魔をしてまで? 怒られただろ。それだけの才能があるのに、無駄遣いだって——。」

「無駄使いじゃないです。人を助けることは——! それに、才能だったらシャイ・ロックさんだってあるじゃないですか。あのキャプテン・シャーロック、面白かったですよ。」

 シャイ・ロックの表情が固まった。

「・・・面白い?・・・・・カッコいい——じゃなくて?」

「はい!」

(イ、イツミ! おまえ・・・テンネンにもほどがあるぞ!)

 クメリアはハラハラしたが、一緒にいるカウンセラーのサーナはニコニコしているし、シャイ・ロックも気を悪くした様子もない。

(だ・・・だめだ。この人たちの感覚に、わたしはついてゆけそうもないぞ?)


「すっかり別人になれるなんて、すごいです! お芝居やったら、きっとスゴイと思います。」

「・・・・・・・」

 シャイ・ロックは、なにか初めて異世界人でも目にしたみたいな眼で、逸美の顔をまじまじと見た。

「俺は・・・・浮いてるだけ・・・・だと・・・」

「え?」と逸美がテーブルの下を覗き込んだ。

「大丈夫です。ちゃんと足は床についてます。わたしも昔は、よく浮きましたけど。ESPが漏れ出しちゃって・・・」

 ぷっ、と、この刑務所に来てから初めてカノンが笑った。

「いるんだな・・・。あんたみたいな人が・・・。これが、可能性なのか——。」


 しばらくの沈黙の後、カノン・ド・シャイ・ロックは初めて、澄んだ光を宿した目で逸美の黄金きん色の瞳をまっすぐに見た。

「仲間を・・・、助けてくれてありがとう。」



 それから1年後。

 アースの更生刑務所の中に、更生プログラムの1つに認められて小さな私設劇団が立ち上がったことを、逸美もクメリアも知らない。

 やがて世間に少しずつ知られるようになる『劇団アルカディア』の名前を2人が聞くのは、まだずっと先のことになる。



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