仲間たち
逸美は徐々に、チームの中での仕事もこなせるようになっていった。あいかわらず単独の遊撃隊として使われることが多かったが、ミッションによってはチームの一翼を受け持つことも増えてきたのだ。
逸美が能力の加減を上手くできるようになったことも大きいが、チームのメンバーが逸美の能力を活かそうと努力し始めたことも大きかった。
クメリアから『デスペラド猟団戦』の時の逸美の様子を聞いたことも、隊員たちの心に火をつけたようだった。
あの子をそんなふうに泣かせたくはない——。結果として、自分たちはイツミに命を救ってもらっているのだから。
我々がもっと強くならねば——。優しさを貫くには、強さの裏打ちが要る。
もちろん、イツミの能力は誰よりも強い。だけど、それを全部わずか13歳の少女に負担させていていいのか? 大人として恥ずかしくないか?
ジライドなどは、はっきり口に出した。
「オレはイツミを二度とそんなふうに泣かせない! あいつが不殺を貫きたいなら、それをサポートできる仲間になってやる。あいつの能力についてゆけるくらい強くなってやる!」
隊員たちの訓練に、熱が入り始めた。
思いとしてはわかるが、戦場はそれほど甘くないぞ——。
そんな、やや懐疑的な目で隊員たちの自主訓練を眺めているのは、皆より一回り豊富な戦闘経験を持つルゥ・マフムドだ。
その背中に、デ・ユウラン隊長が声をかけた。
「いいんじゃないか? チームワークのグレードが上がるのは——。100%達成できなくても、目標は高い方がチームは伸びる。」
当の逸美は・・・というと、このところ自主訓練の参加頻度が減ってきている。
試験勉強に忙しいのだ。
軍務の合間を縫ってのオンライン授業で中等部のカリキュラムをこなしていたが、間もなく期末テストがやってくる。
これで赤点を出したら、年度末の単位が危うくなりかねない。落第、などというハメになったら、ル・ハンナ校長先生に顔向けできない。
「やばい。やばいんです、マジで・・・。」
クメリアなどは面白がってからかったが、本人は真剣だ。
「サシャ・タミヤさん、ベクトルの計算、教えてもらえませんかあ——?」
「いつもESPでやってるじゃない。曲げて撃つ光の剣なんて、普通あそこまで正確にできないわよ。(笑)」
「あれは、計算じゃなくて、感覚的に———。」
試験勉強のためイツミが抜けた自主訓練を見ていたデ・ユウラン隊長のもとに、イマルが近づいてきた。
「隊長、一つ提案があるんですが・・・」
「ん?」
デ・ユウランは、すぐに全身を耳にしたような表情になる。こういうあたりが、デ・ユウランの組織リーダーとしての優れた点だった。
組織の中に無用の澱みができにくく、常に小さなイノベーションを起こし続けてゆける。
アースエスパー部隊が連邦軍の中でも優れたエスパー専門部隊の1つに数えられるようになっているのは、こうしたデ・ユウラン隊長の資質にもよるところが大きかった。
だからこそ、逸美もここに配属されたのだろう。
「イツミは1人で数人分の働きができるポテンシャルを持っています。」
イマルの提案は、イツミの新しいポジションに関するものだった。
「彼女が『殺したくない』のなら、バリアラーに特化してしまうというのはどうでしょう?
隊を複数のチームに分けて作戦行動する場合、1つのチームのバリアラーの役割を1人で任せてみるんです。その分、他のチームのバリアラーを増やして防御力を強化できますし、イツミが1人でやるならポテンシャルバランスの心配をする必要もありません。
しかも、必要な時には、それ以外の役割を臨時でやらせることも可能です。」
「なるほど。」と、デ・ユウラン隊長は大きく眉を開いた。
「君らがそれに対応できるなら、それは良いアイデアだ。次の出動の時に、そのフォーメーションを試してみようか。」
それから軽く、くすり、と笑った。
「イツミのチームと当たった敵さんはラッキーだな。」
「ですね。」と、イマルも相槌を打つ。
逸美なら、敵の命もついでに守ってしまえるだろう。「敵」としては、それはラッキーなのかどうか。
エスパー部隊は単独で出動することは少ない。多くの場合、一般部隊の援軍として出動命令が下るが、その中には数人のチームを派遣するだけ、といったケースもままある。
そういう時は隊長が出ていったりはせず、その都度チームリーダーを決めて事に当たらせる。
「ラン・チェン。出動要請のあった海賊艦退治だが、4人のチームリーダーとして行ってくれ。
編成は、テレパスとアタッカーがおまえ、テレキネシスとしてアスラ・ムギ、透視とバリアラーとしてイツミ、ヒーラーとセカンドアタッカーがサシャ・タミヤだ。テレポートが必要なら、それもイツミにやらせていい。」
デ・ユウラン隊長は、早速イマルの提案を試してみることにした。
「はい!」
ジライド・ラン・チェンが目を輝かせて拝命する。
海賊船退治にたった4人というのは、いかにも少ない。これも、逸美が加わっていればこその編成なのだろう。
ついに、イツミのチームリーダーになれたぞ!
ジライドは謹直な表情を作ろうと努力しているが、頬が自然に緩みそうになるのを止められなかった。
「海賊艦のデータだ。現場に着くまでに全員に見せておけ。」
隊長が小さなメモリスティックを渡す。それを胸ポケットに入れて、ジライドは敬礼を一つすると隊長室から颯爽と出ていった。
(はりきってるな、ジライド。)
デ・ユウランは内心少し面白がりながら、慈父のような眼差しでそれを見送る。
ジライドは、隊長代理の出動命令者として3人を呼び出した。3分以内で、ダンク、イツミ、クメリアの3人が戦闘艇発着エリアに集まる。
「今回、イツミは透視とバリアラーに特化してもらう。皆もそのつもりで。」
「はい!」
「はい!」
リーダーとして指示を出すジライドに、入隊して9ヶ月目のイツミとダンクは大真面目に返事したが、クメリアはちょっと可笑しそうにしている。
(初めての『リーダー』に、はりきってるぅ。しかもイツミをチームに入れて、だもんね——。)
ジライドはクメリアのその表情に気が付いたが、気づかなかったふりをして無視した。まあ、見てろって——。イツミの新しいポジションを確立して見せてやるから。
「現場はヴィーナスの衛星軌道上だ。アース支隊第7分隊が鬼ごっこしてる。我々は戦闘艇で行って拿捕のお手伝いをする。ワープして向こうに着くまでの間に、敵海賊艦のデータを見ておくよ。」
歩きながら、ジライドは隊長から渡されたメモリスティックをポケットから取り出して見せた。
8分ほどでワープ速度に達し、10分でワープが終了するはずだ。船に乗ってからでも、ざっと頭に入れる時間は十分あるだろう。
戦闘艇のモニターにスティックを差し込むと、海賊艦に関するデータが映し出された。
えらく派手なデコレーションの船で、宇宙船というより、アースの海に浮かぶ遊覧船の形に近い。船の名前は『アルパカディア号』と言うらしい。
「どういう意味の何語だ? キャプテン・シャーロック? ああ、あの芝居がかったキザな野郎か。」
ジライドがバカにしたような声で言った。
「古代ユーロ語ではないでしょうか。古代文学の授業で、よく似た名前を見たことがあります。」と、これは逸美。
「たしか、キャプテン・ハーロックって言って、宇宙海賊のヒーロー物語です。その持ち船が『アルカディア号』という名前だったと思います。それ、もじったんじゃないですか?」
逸美は中等部でも『古代文学A』を専攻していた。初等部ではニガテだった科目だが、「物語」が読めるようになってからこの科目が好きになり、成績も見違えるように良くなっている。
「古代の物語の方のハーロックは、すごくカッコいいですけどね。そういえば、シャーロックっていう名前の探偵の話もありましたよ。ごっちゃ混ぜですね。」
逸美が可笑しそうに言うと、ジライドもうなずいた。
「知識はあるが、独創性のないヤツなんだろう。」
「ちなみにアルパカというのは古代文明期に絶滅した4足歩行の哺乳類よ。ふわふわ毛並みののんびりした雰囲気の動物で、およそ海賊とはイメージが合わないわ。おそらく、それが何かも知らずに、音の『響き』だけで使ったんじゃないかな。」
「サシャ・タミヤさん、詳しいですね。」
「わたし、これでも生物学の研究員の資格持ってんの。」
クメリアが逸美にちょっと得意そうに言ったところでワープが終了し、戦闘艇はヴィーナスから2万キロのワープ地点に到着した。
惑星ヴィーナスは、名前とは裏腹に過酷な環境の惑星で、人類の生活圏には適さない。もっぱら資源惑星として活用されていた。
極地方のいくつかのドーム基地と、衛星軌道上の人工都市に、資源採掘に関わる人々とその家族が住んでいるだけで、総人口も1億人程度と少ない。
権限の限定的な自治政府はあるが、基本的にはアース政府の管轄下にある。
ただ、貴重な鉱物資源が多く採れることから、自治政府は結構豊かで、エンジニアたちの生活レベルも高い。
海賊艦は、そんなヴィーナスの人工都市が回る衛星軌道を縫うようにして連邦軍の艦艇から逃げ回っていた。
人工都市が近くにあるので、連邦軍も迂闊に発砲できない。海賊艦はそれを利用して、ワープで逃げる機会をうかがいながら逃げているようだった。
それだけなら、まだかわいい方なのだが・・・・
「はぁーはっはっはっは! こーの私を、捕まえられるものなら捕まえてごらんなさぁーい!」
衛星軌道上の連邦軍の艦艇に接近すると、船内スピーカーが突然キザったらしい声でがなり始めた。
どうやら第3波動を使って、広範囲の周波数帯をジャックしているらしい。スピーカーというスピーカーが、敵の放送を拾っている。
「わーたしはキャプテン・シャーロック! 何者にも束縛されない自由の海賊、キャプテン・シャーロックだ!」
「うっとおしいヤツね。」
クメリアが、イラッとしながら三白眼になった。イツミとダンクは目がテンになっている。世の中は広い。こんなハズカシイやつが、いるんだ・・・。
「ショボい麻薬の運び屋のくせに——。あーっ、うっとおしい声だな! スピーカーの電源切れないのか?」
ジライドがパイロットのカンタ・ナラ・ヒゥ・ランスに言ったが、カンタはヘルメットを外した頭をこちらに向けて肩をすくめただけだった。
ヘルメットのスピーカーがうるさくて、かぶっていられないのだ。
「バリアで止めてみます。」
「そんなこと、できるのか? イツミ。」
「第3波動ですよね、たぶん? 中和バリアをうまく使えば——。」
逸美の黄金色の瞳が少しだけ光ると、すぐにスピーカーは黙った。
「さすがだなぁ! イツミが一緒でよかった。でなかったら、オレが船中のスピーカーぶっ壊して回ってたかも——。」
ジライドがホッとした顔で言う。
「よーし、あの三文芝居野郎をちゃっちゃととっ捕まえて帰ろうぜ。カンタ、攻撃デッキのシールド開けてくれ。みんな、デッキに出るぞ。」
4人のエスパーは、透明なドームに覆われた攻撃デッキに出た。目の前にヴィーナスの美しい地平線が弧を描いている。




