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イツミ外伝 ーオリジナルー  作者: Aju


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不殺の戦士(後編)

 イツミが戦場に復帰した。


「ご迷惑をおかけしました。」

 その挨拶を一方的に隊長に伝えただけで、逸美は例のオレンジ色のバリアをいくつも張り始めた。

 これまで、2つしかなかった対ネスパタイトバリアが7つも8つも現れたことで、敵側は狼狽したようだった。

 オレンジ色はもちろんフェイクだが、透明な部分も大きく横に広げ、敵と味方の間にバリアの幕を作ってしまった。

 しかもそのバリアは、味方のレーザー弾だけを通し、敵のそれは全てはじいてしまっている。敵だけが、バタバタと倒れてゆく。

(こんな器用なことができるものなのか?)

 デ・ユウラン隊長は、イツミの能力ちからの底知れなさに改めて驚いた。


 だが、しばらくすると、デ・ユウランはさらに驚かざるを得ない事実に気がついた。敵側の損害に変化が現れているのだ。

 こちらの銃弾だけが当たるのだから敵が倒れるのは当然としても、敵側にも死者が出ていなさそうなのだ。

 負傷者が増えて戦力が急速に弱まってはいるが、こちらから見て、明らかに即死した、と思えるような敵が1人も発生しなくなったのだ。

 よく見ると、味方のレーザー弾も時々はじかれている。

 ・・・まさか!

 敵兵の致命傷になりそうな火線のレーザー弾をもはじいているのか? この状況でなおも、敵の命まで守ろうとしているのか? この子は・・・!


「イツミ!」

と、デ・ユウラン隊長の声に、逸美はびくっと体を縮めた。

「残った人数を全て、例のやつで気絶させられるか?」

「はい!」

 どこか少し安心したような声で返事をすると、逸美は大きめの光の剣を4本作リ、それを物陰に隠れて射撃を続ける敵に向かって放った。

 バシャ、バシャ、とそれが弾けて銃撃が止んだ。


「よくやった。」

というデ・ユウラン隊長の言葉に、この艦に突入してから初めて逸美が笑顔らしいものを見せたその時——。

「・・・ッ!」

 逸美の左腕を激痛が襲った。

 すぐさま、近くにいたルゥ・マフムド副隊長が、横たわったままでネスパタイト銃を撃った海賊の男をレーザー弾で射殺した。

「なぜトドメを刺さない!? 甘いことを考えてるから、こうなるんだ。こんなことでは戦場では長生きできんぞ!」

 ルゥ・マフムド副隊長の剣幕に、逸美は唇を噛んで下を向いた。宇宙服に残っていた酸っぱい臭いが鼻をついた。


「そんな言い方しなくてもいいでしょ! イツミは隊長の命令に従っただけじゃないですか!」

 クメリアが副隊長に噛みついた。そのまま駆け寄って、逸美の腕の治療を始める。

「いや・・・、オレはだな・・・」

と、ちょっとたじろいだルゥ・マフムド副隊長にクメリアがさらにたたみかけた。

「心配してるのはわかってます。でも、心配するのは身体だけでいいんですか?」


「オレたちこそ、イツミの能力に甘えすぎてます。」

 今度はジライドが援護射撃に入った。副隊長の旗色が悪い。

「イツミが殺したくないなら、そうしなくて済むようにオレたちがもっと頑張ればいいだけです! オレはそうします!」

「はいはい。それくらいにして。母艦に引き上げるぞ。負傷者もいることだし。」

 デ・ユウラン隊長が話を引き取って、その場をまとめた。


「わたしは少し遅れて帰ってもいいですか?」

 クメリアがデ・ユウラン隊長に申し出た。

「ちょっと、拾っていきたい子がいまして・・・。」

「拾っていきたい子?」

「あ・・・えと、敵の少年兵なんですが・・・。まあ、その、ただ軍のしかるべきところに引き渡すだけなんですが。少しばかり事情を説明して・・・。ついでに、イツミも借りたいんですけど。」

「なんで?」

「わたし、テレポートできませんから。」

 そう言って、クメリアは逸美に軽く目配せした。

「ああ、構わない。イツミ——。怪我してるところ悪いが、クメリアを運んでやってくれ。」

 隊長は何かを察したようだった。





 アースエスパー部隊は、長官賞を受けることになった。

 最初、逸美個人に贈られる話だったが、逸美が固辞した。突入してすぐ吐いた女の子が、「英雄」であるはずがない、という理由だった。

 たぶん、もう少し深い思いがあるのだろうが、それには触れないことにしてデ・ユウラン隊長が説得すると「部隊としてなら・・・」ということになった。


 結局、デ・ユウラン隊長が、代表して賞を受け取りに本部に出向いた。


「どうかね。期待のルーキーは?」

 式が終わった後、セラ・クレール長官が個人的にデ・ユウラン隊長に近づいてきて話しかけた。

「少し優し過ぎるようですね、軍務に就くには——。」

「だからいいのさ、ボゥブ。」

と、長官はデ・ユウラン隊長をファーストネームで呼んだ。

「軍というのは暴力装置だ。暴走しだしたら、これほど恐ろしいマシンはない。だから、ところどころに優し過ぎるのや冷静過ぎるのがいてくれないと——。」

 そう言って、いたずらっぽく横目でデ・ユウランを見る。

「それは、私のことをおっしゃってるんですか?」

「さあ——。誰のことだろうな。」


 帰ろうとしてから、ふと思い出したようにして長官はデ・ユウラン隊長の方にふり返った。

「そうそう、そのヒーローに、『少年は5年の更生施設行きに決まった』と伝えてくれるかな。」

「?」

「それだけ言えばわかるよ、本人は。」

 そう言ってセラ・クレール長官は、笑顔で人差し指を立てて見せた。




 それからしばらく経ったある日の午後。

「隊長。少しだけ、お時間ありますか?」

 ロビーで休憩中のデ・ユウラン隊長に、逸美が声をかけた。いつになく、真剣な眼差しをしている。

「あるよ。」

 デ・ユウランは逸美が何ごとかを訴えたいのだと察して、表情を優しくした。

「10分ほどでいいんです。見てもらいたいものがあるんです。宇宙空間へ一緒にテレポートしますから、宇宙服を着けていただけますか?」

「ここの訓練場ではダメなのか?」

「はい。狭すぎるんです。」

 逸美はどうやら、とんでもないESPを披露しようというつもりらしい。


 宇宙服を着けた逸美と隊長の2人が、アースから離れること3万キロの宇宙空間に浮かんだ。

 逸美が両手を広げる。ヘルメットを通してすら、その瞳が黄金きん色に光るのがわかった。

 凄まじく巨大な球面バリアが現れた。戦艦を丸ごとカバーできそうな大きさだ。

 俗に「ESPの盾」と呼ばれるものだが、それにしてもこんな巨大なものをデ・ユウランは見たことがなかった。

 逸美はそれを、自由自在に波打たせたり伸ばしたりして変形させてみせる。たしかにこれならば、さまざまなシーンで部隊そのものを丸ごと守ってしまうことも可能だろう。

「隊長。」

 逸美がバリア面を揺らしながら言う。

「破ってみてください。」


 デ・ユウランも、なまなかなエスパーではない。大きな光の剣を作り出し、力いっぱいバリア面にぶつけてみた。

 しかし内側からですら、対消滅どころかバリア面にはほころびひとつできず、光の剣だけが消滅させられてしまった。

 なんという強さ!


 地上に帰ってくると、逸美は宇宙服のヘルメットを取って、軽く頭を振った。紅い髪がわずかに風をまとった。

「とんでもない能力ちからだな。」

 デ・ユウランもヘルメットを取って、あきれ顔で逸美を見る。


「これを使わせてもらえれば、失わなくていい命がたくさんあります。この前の戦闘の時だって・・・。 どうか・・・」

と逸美は言った。

 その黄金きん色の瞳に、耐えかねたように涙があふれてきた。

「すみません!」

 逸美は、ぐい、と片手で涙を拭って、また真っ直ぐに黄金きんの瞳をデ・ユウラン隊長の目に向けた。

「どうか、守れる時には使わせてください。」

「おまえの判断でやらせろ、ということか?」

 逸美はまだ真っ直ぐデ・ユウラン隊長の顔を見ている。

「軍、というものがどういうものか、わかっているか?」

 逸美は唇を噛んで、視線を落とした。


「まあ、いいだろう。」

と、しばしの沈黙の後、隊長は意外な答えを逸美に返した。逸美は再び視線を上げて隊長の目を見返した。

 たしかに、これほどの能力ちからなら——と、デ・ユウランは考えている。味方の不利になるような流れにつながることは少ないだろう。イツミの思うようにやらせてもいいかもしれない。

「ただし、私が止めた時は命令を無視してはならん。戦場には、流れというものがあるのだ。わかるな?」



 だが、その後の出動で、デ・ユウラン隊長が逸美を制止しなければならないような場面は起きなかった。

 逸美は「戦場」において、味方の兵士だけでなく、時に敵の命さえ守ったが、それは常に戦場の流れを味方の有利になるような方向へと導いていった。

 この子は——とデ・ユウランは舌を巻いた。この歳で「戦略」が読めるようになってきている——。



 ——— 勉強バカではない。賢い子よ。———



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