不殺の戦士(前編)
逸美を後詰めや遊撃に使うようになってから、アース支隊のエスパー部隊の戦績は目覚ましく上がった。
逸美は複数の能力を同時に使える。考えてみればそれは、複数人のもう1つのチームを持っているようなものであった。
しかも1人でそれが行えるため、複数人のチームのようにタイミングのズレというものを心配しなくていい。
デ・ユウラン隊長は、まず部隊のチームで敵を追い詰め、最後の詰めに逸美を投入する——というパターンを好んで使った。
敵の戦意をくじいて、破れかぶれの抵抗でこちらの被害が出るのを防ぐ、という効果も期待できたからだ。
逸美もその辺の呼吸がわかってきて、派手なESP攻撃を加えて、それが敵に当たる直前に自ら作ったバリアで敵の生命を守る、という例のやり方をよく使った。
なんだかアースエスパー部隊の戦場は、13歳になったばかり逸美の遊び場になってしまったような趣きになった。
不運にもアースエスパー部隊と戦う羽目になったテロ集団や海賊などは、ネスパタイト弾が通用しないエスパーを目の当たりにして大混乱に陥り、仕上げに逸美の異次元のESPを見せられて、ほぼ戦意を喪失した形で拘束された。
面白いことに、逸美が戦列に加わるようになってからというもの、このエスパー部隊の戦場では死者が出なくなった。
味方はもちろん、敵側にも重傷者すら出ない。
デ・ユウラン隊長は面白がったが、それは面白いだけでなく、思わぬ副次効果も生んでいる。
殺さずに捕らえられる犯人が増えることで、テロ組織や暴力組織の情報が得やすくなり、結果として捜査が進展する。組織の壊滅に向けた軍事行動、警察行動が起こしやすくなっていったのだ。
アース周辺に、海賊船が現れる頻度が減った。
しかし、例外もあった。
自ら外道を名乗る『デスペラド猟団』は、むしろライバルが減った、としてSUN恒星系を「草刈り場」と称して出没を繰り返した。
彼らの襲撃は残虐を極める。『デスペラド猟団』に襲われた商船の乗組員は、1人残らず殺された。「降伏」はあり得なかった。
もちろん、商船側も傭兵を雇って武装しているのだが、襲われながらも猟団を撃退できたケースは2割ほどしかない。
幸いにして『デスペラド猟団』は客船を襲わないが、それには彼らなりの理由もある。
まず、大勢の人を運ぶ客船には、基本、軍の護衛がつく。一方、資源や商品貨物などを運ぶ商船は、数も多く、軍はそこまで手が回らない。
そのくせ、1回の襲撃で得られる利益は商船の方がはるかに大きいのだ。
軍や警察も手をこまねいていたわけではない。通報を受ければ個別に出動して、撃破し、海賊の何人かは生きたまま拘束もした。
捕まえた海賊から情報を引き出し、捜査を進め、そしてようやく今回、猟団の基地の1つがSUN恒星系の小惑星帯の中にあることを突き止めた。
「今回は、かなり大きな作戦になる。」
デ・ユウラン隊長が、ブリーフィングルームで敵基地の構成図を前にして隊員たちを見回した。
「アース支隊とマーズ支隊の強襲突撃艦合わせて5艦と、ガニメデ支隊のエスパー部隊、そして我々、という編成で、この5つの小惑星基地を叩く。全体の指揮官には、アース支隊のメリー・ベール司令官が就く。
ルゥ・マフムド副隊長、詳細の説明をしてくれ。」
隊長から話を引き継いだジャン・リト・ルゥ・マフムド副隊長が、コマンドモニターを操作して布陣図を敵基地構成図の上に重ねて表示した。
「我々はここに布陣して、アース支隊の1艦とマーズ支隊の2艦に連携しながら、飛び出してきた敵艦に突入攻撃を行う。
敵の戦闘船は2艦という情報だが、確実ではない。他にもいる可能性を考えて行動する必要があり・・・」
逸美にとっては初めての大規模な戦闘になる。
アースエスパー部隊は3つに分けられた。デ・ユウラン隊長の率いるAチーム、ルゥ・マフムド副隊長の率いるBチーム、そしてデ・ユウラン隊長の指示で遊撃軍として臨機応変の支援に当たる逸美である。
「イツミは指示がない限り、私の傍にいろ。指示をしたら、そこへ跳んで支援しろ。」
デ・ユウラン隊長は最後に逸美にそう指示して、淡い緑色をした袋を逸美に手渡した。
「吐瀉物用だ。」
「としゃぶつ?」
マーズとジュピターの間にある小惑星帯に、連邦軍の小艦隊がワープしてきた。強襲突撃艦5艦と、アース、ガニメデそれぞれのエスパー部隊の母艦が1艦ずつだ。
近くで見ると、たしかに不自然な形で不自然な回転をしている小惑星が5つある。敵の基地ステーションに間違いない。
偽装された出撃口が開き、猟団側の戦闘機が無数に吐き出されてきて基地と連邦軍艦隊の間に布陣した。
連邦軍側も、5つの強襲突撃艦から戦闘機が発進し、艦を取り巻くような布陣で敵と向かい合った。
ひときわ大きな小惑星の出撃口が開いて、そこから重武装の戦闘艦が出てきた。情報通り、2艦である。
出てくるなり、前触れもなく連邦軍の艦に向かってレーザー砲を連射し始めた。同時に敵戦闘機も攻撃を開始する。
「対宙防御! 戦闘開始! 殲滅せよ!」
メリー・ベール司令官の一声が、連邦軍の全戦闘艦のスピーカーから流れた。
どこからどこへ向かって撃たれているのかもわからないほどの激しいレーザー砲撃の応酬が始まり、無数の戦闘機が入り乱れてのドッグファイトを始めた。
敵の戦闘機も、味方の戦闘機も、次々に、真っ黒な宇宙空間の中で一瞬の光になったかと思うと、そのまま暗い宇宙の闇の中に散逸してゆく。
その1つ1つに命が乗っていて、それが宇宙空間にはじける寸前の悲鳴が、逸美の敏感なテレパスに否応なく突き刺さってきた。耳を覆って消せるものではない。
命を守る、などという状況にすらない。人ひとりの命が、まるでゴミのように吹き飛ばされてゆく。
これが戦争?
今までのは、何だったの?
守りたい! せめて、味方の機だけでもバリアを張って——!
逸美はわななくような瞳で、デ・ユウラン隊長を見上げた。
「まだだ。我々が出るタイミングは、今ではない!」
軍人である以上、上官の命令は絶対だ。逸美はテレパス能力を必死で絞って、悲鳴の津波に耐えた。
そんな逸美を、デ・ユウランは見下ろしている。
大丈夫だろうか、この子? 軍人としては感受性が高すぎるのでは? それとも年齢的なものだろうか。
だが、いずれにせよ隊員である以上、13歳といえども他の隊員と同様に扱う。その能力に見合った働きをしてもらうぞ——。
逸美は今にも泣きそうな表情をして、拳を握りしめている。が、その目は涙を溜めてはいない。
黄金色の瞳は、一種異様な光を帯び始めていた。




