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イツミ外伝 ーオリジナルー  作者: Aju


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10/27

突入

 ユタはマーズの地方都市でも、わりに大きな都市である。

 その旧市街の古いビルに、『赤い星の神』のリーダーは潜伏していた。ビル全体が、見た目よりも強固な要塞に改造されている。


 リーダー自身もエスパーだったが、そのボディガードに強力なエスパーがいるらしく、マーズ警察は遠まきに取り囲んでビルを封鎖しているだけで、突入することができないでいた。

 逃げ道を塞がれた『赤い星の神』側も、死にものぐるいの抵抗をしてくることが予想され、むやみに突入すれば膨大な人的被害が出そうであった。


「どういう状況です?」

 デ・ユウラン隊長が、現場の指揮をとるゼニー・カーター警部に聞いた。

「封鎖だけは厳重にしてあります。テレポートで逃げられるのを防ぐため、4人のバリアラーで妨害バリアを作ってビルを包んでいますが、如何せん、こちらも戦闘力不足で踏み込むことができないまま膠着状態です。」

 デ・ユウラン隊長は、ビル周辺の警察の配置を一瞥すると、警部の方に視線を戻した。

「ビルの見取り図はありますか?」

「建設当時のものでしたら入手してありますが——。その後、連中がどういう改造を施したか、までは・・・。なにぶん、あちこちがESPシールドされているようでして・・・。」

 一応、警察のエスパーによるサーチは試みたらしい。

「イツミ。」

と、隊長が逸美の方にふり返った。

「サーチして、この図に描き加えられることはあるか?」

「はい! やってみます!」


 能力ちからはあってもチームワークの中に上手く入れないので、しばらくは見習い——と覚悟を決めていた逸美は、いきなり振られた重要な役目に心を弾ませた。

 役に立つ仕事をしよう!


 逸美はサーチで見たものを、現場用コマンドモニターの上に現れた立体画像に光子ペンを使って描き加えてゆく。

 壁を抜いて作られた通路、新たに作られた間仕切り、侵入した敵を誘い込む迷路と罠。リーダーや側近のいる部屋や、各所に配置された人数まで描き込まれた。

「ESPシールドまで透視できるんですか?」

 ゼニー・カーター警部が目を丸くして、この年端もいかない少女に聞いた。

「工事が雑だから、隙間だらけなの。」

「こう見えて、うちのエースでしてね。」

 デ・ユウラン隊長が警部を見て片眉を上げた。売り込んでくれている。


 逸美は初めて役に立てたことが嬉しく、誇らしい気持ちも持ったが、同時に、今のところ足ひっぱってるだけの自分を隊長が持ち上げてくれることが少し恥ずかしくもあった。

 早くみんなに追いつかなきゃ。


 そうではない。「みんな」がついてこれないだけなのだが、逸美の頭ではそういう考えは浮かばないようであった。




 逸美が描き加えた見取り図を使ってデ・ユウラン隊長が立てた作戦を基に、エスパー部隊と警察の機動部隊の合同突入作戦が始まった。

「私のそばを離れるな。」

 デ・ユウラン隊長が逸美に言った。

「はい!」

 逸美は緊張した面持ちで、隊長の後に続く。

 隊長の思惑は、ここぞ、という時に遅れなく逸美の能力ちからを使うことであったが、やはり12歳という見かけもあって、実戦の危険から守ろうという気遣いもどこかで働いていたかもしれない。

 チームのメンバーにも、なんとなくまだそんな空気があるようだった。

 能力ちからがあるといっても、まだ子どもだからな——。


 逸美はそのテンネンな雰囲気からは想像できないほど、そういうことにかけては実に敏感に察知する。

 しかし、それに対してこの少女には、そういう年齢の子どもに見られがちな変に虚勢を張ったり、認められようとして無理な行動に出る、というところがまったくなかった。

 そういうものを「当然」として、何も足し引きせず、そのまま受け入れてしまう。その感覚はどうやら、あの対人距離の絶妙なバランス感覚と同じところから出ているようであった。


 ビルに近づくにつれて、窓から散発的な銃撃があったが、そんなものは軍のバリアラーがバリアを張って防ぐので問題はない。

 ただ、その中にネスパタイト弾を発射できる銃が混じっているようで、バリアを突き抜ける質量銃弾があった。

 ネスパタイト弾はESP中和物質でできた銃弾で、軽い素材だから致命傷にまではなかなか至らないが、エスパーにとっては防ぎようのない厄介な銃弾だ。もちろん、当たりどころによっては生命に関わる重傷を負うことだってあり得る。

 デ・ユウラン隊長はこの可能性を見越していて、あらかじめ警察の機動部隊に防弾盾を持たせてエスパー部隊の前を行かせていた。


 窓からの銃撃をやり過ごして、ビルの3方向の扉を爆破する。すぐさま警察・エスパー混成部隊が突入した。反撃はない。

「クリア!」

「クリア!」

 1階はすでに敵は撤退しているようだった。

「イツミ!」

と、隊長が傍らの少女の名を呼ぶ。

「はい!」

「敵の人員配置をサーチして、テレパシーで各戦闘部隊付きのテレパスに情報を送れ。」

 これこそ、マルチな能力を高いレベルで使えるイツミの、最も有効な使い方ではないか——。



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