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突然変異

 その子は、銀河連邦の辺境にある惑星の、そのまた片隅にある小さな島で生まれた。

 その惑星は人類発祥の地という伝説を持つ歴史の古い惑星で、海が多く、生物種も豊富な美しい惑星だった。

 惑星の名を、アースという。


 生まれた時、その子は彼女の属する民族には珍しい赤茶けた髪の色をしていた。瞳は明るいオレンジ色で、どうかすると光を反射して黄金きん色にきらきらと輝いた。

「この子は、神様の使いにちがいない。」

と、村長むらおさは言い、「イツミ」と名づけられた。

 民族の伝統にのっとって、その子にも古代文字の装飾が与えられた。


 『逸美』という文字である。

 この古代文字は「優れて美しい」という意味を持つ。


 赤児あかごはやがて、その名に恥じない美しい女童めわらべへと成長してゆく。

 長ずるにしたがって髪は真紅に、瞳は黄金きん色に近づいていった。


 エスパーであることもわかった。

 それも、並のエスパーではない。信じられないほどのESPポテンシャルを持っていた。

「なるほど。魔法や神通力とESPが混同されていたような時代だったら、この子は間違いなく『神か魔の使い』として、崇められるか迫害されるかしたんでしょうね。」

 検査した連邦の登録官は、笑顔とともに両親に話しかけた。もちろん、ESP科学が進歩した現代、そんな迷信を真に受ける人はいないだろう。

「それにしても、こんな凄いポテンシャルを持った子は初めてです。計測器が振り切れそうだ。できるだけ早いうちから、専門の訓練施設に通わせることをお勧めしますよ。」


 しかし、逸美の生まれた島の訓練施設では、すぐにこの子の能力を持て余してしまった。

「我々に教えられることは、もうなくなってしまいました。もっとハイクラスな訓練校に、飛び級で入学された方が・・・。」


 両親は相談の末、逸美とまだ幼い弟を連れて大陸にわたることにした。

 そうして新しい環境の中で、逸美は全寮制のエスパースクールに入学することになった。




「こんど編入してくる子は、5歳だってよ。」

「ええ!? それって、幼年園の年齢じゃないかよ!」

 噂が流れた時点で、教員たちはざわついた。

 エスパースクール初頭科の入学年齢は7歳が普通である。ごく稀にESPポテンシャルの高い子が6歳で入学することはあるが、5歳というのはあり得ない年齢だった。


 ESPというものは、「意思」がはっきりしないと波動が集中しない。だから、幼児のうちは、よほどポテンシャルが高くても、波動が拡散してしまうために物理的影響を引き起こすところまでは行きにくい。せいぜいが、周辺環境に影響して生存確率を上げるくらいのことだ。

 人類の中にはNESP(ESP因子を全く持たない者)という人間も5%程度はいるのだが、大多数の人間はESP因子それ自体は持っている。

 その中で、波動を集中させることができ、なんらかの物理的現象を引き起こすことができる者を「エスパー」と呼ぶ。

 ほとんどは、紙コップを倒すことができる、とか、カードの裏が読める、とかいった程度のかわいらしいものでしかないが、そんな中で数%の児童が、将来、職業エスパーになれる可能性を持っているのだ。

 エスパースクールは、そういう子どもたちのための専門校だ。いわば、一種のエリートコースである。


 初等科では、まず集中の仕方と制御の仕方を徹底的に訓練する。いくら集中できても能力ちからが暴走してしまっては、役に立つどころかむしろ害になるからだ。


 ところが逸美の場合、まだ「たまご」が「たがも」になるような片言を話し始めたころからポルターガイスト現象を引き起こしてしまった。

 仕方なく、ESP抑制リングを着けて生活することになったが、それもあって連邦の登録官は、早めの訓練施設での訓練を勧めたのだ。


 逸美の「暴走」は危険なものではなかった。むしろ、周りの子どもたちは喜ぶような現象が多い。

 抑制リングを外してもらえるのは施設の中だけなので、逸美はそれを楽しみにしていたが、先生の指導で「制御法」を訓練しているうち、どうかして楽しくなってきてしまうとポルターガイストが始まってしまうのだ。

 そこらへんのオモチャやらぬいぐるみやら座布団やらが踊り出し、ピアノが勝手に演奏を始める。

 他の子どもたちは大喜びだったが、当の本人はパニクってしまって、なんとか制御しようとするのだが、パニクるほど事態はひどくなる。

 しまいに逸美が、わーん、と泣き出して、先生が抑制リングを着ける——、といったことがままあった。


 そして、飛び級進学することになった。

 島の訓練施設には、これほどのポテンシャルのESPを制御するスキルを教えられる先生がいなかったのだ。


「イツミちゃん。君の場合は、とにかく『抑制法』から訓練しないと——だね。」

 エスパースクールの先生はそう言って、まずは波動の出力制御や到達距離制御、ターゲット以外への漏えいの防ぎ方などを徹底的に教え始めた。


 訓練は、他の子たちと違って、静かなものだった。

「はい、吐いてぇ——

 吸ってぇ——

 内側に溜めてぇ———

 ・・・・・

 はい、指先から——

 足の裏から——

 頭のてっぺんから——

 両目の間から——

 頭の後ろから—— ・・・・・」


 波動をまるめて・・・、細めて・・・、閉じ込めて・・・、解放して・・・。


 初めのうち時々、逸美は自分自身が上も下もない空間の中で揺られているような錯覚を覚えたが、2週間もすると、次第に自分の内側からあふれてくる波動の絞り方が解ってきた。

 波動を絞ることができるようになると、もともとポテンシャルの高い逸美は他のどの子よりも上達が早かった。

 この子は将来、どんなエスパーに成長するのだろう? 教員たちは袖引き合って噂しあった。

 そんな逸美はまだ6歳になったばかりでしかない。



 エスパースクールは全寮制だから、両親に会えるのは基本的に週末だけになる。

 もちろん、病気をしても親は呼ばれるが、仮病を使っても先生はみんなエスパーだからすぐにバレる。

 だから子どもたちにとって週末はうんと待ち遠しい時間で、両親が会いに来ると年少の子どもたちは皆、まるっきりの子どもに戻って甘えるのだった。もちろん、逸美も例外ではない。

 ただ、他の子たちが「こんなことができるようになった!」と両親にそのESP訓練の成果を自慢するのに対して、逸美だけは抑制リングを着けて会うことを好んだ。

 安心して甘えるためなのだ。


 逸美の自慢は、抑制リングを外してみせることだった。

「ほら! 外しても大丈夫になったよ! おもちゃだって、1つだけを踊らせることができるんだから——!」


 次元が違う。



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