仲良くなりたい! Ⅱ
──────何とか、お茶会は終わった。夕飯、湯浴みを終えて、今日はもうぐっすり眠れそうだ。
「はぁあああ、疲れたぁぁあああ」
独り部屋に戻ると、私はそのまま布団にダイブする。やっぱりこの布団サイコー!
「私が結婚するまで結婚しない!とか言ってたからって、お兄様たちの結婚話なんかするんじゃなかった……」
お父様、家族愛が過ぎるわ。知ってたつもりだったけど、所詮つもりだった。あんなにゴネて、泣き出すとは。皇帝陛下に、「今度、酒でも飲みながら聞いてやるから」ってなだめられてた。うちの家族が、ご迷惑を!あれは、申し訳ないわぁ。
─────コンコンコン
「はい、どうぞ〜」
すぐさま、身を起こす。入ってきたのは、寝巻き姿のセディ様。やだ、色香がすごい。
「今日はお疲れ様」
「セディ様も、お疲れ様。あと、うちの父がすみませんでした」
「いいよいいよ。それより、ディアンとブラントに恋人がいたとはね。僕も知らなかったよ」
セディ様、お優しいお言葉、痛み入ります。てか、あの場の全員が驚いてたけど、あの二人に恋人ってそんな意外?性格はアレだけど、優秀だし顔いいし家柄いいし、優良物件じゃんね?
性格?私が思う以上に問題ありとか?
それとも、あの面倒な父親のせい?
「ブラント兄様なんて、もう10年近くなるかな。一途でしょ?」
「10年!?」
「お相手が一人っ子だから、婿入りが決まってて。私が結婚するまでは〜って、待ってもらってたはず」
本当は結婚する気がないんじゃないかとか、自分は遊びで他に恋人がいるんじゃないかと、何度不安にさせて泣かせたんだか。あまりに相手が不憫で、何度こっそり仲裁をしてやっていたことか。
「見合いさせられまいと、向こうの家には挨拶に行ってたから、お父様たちも知ってたとばかり」
「ははは、まぁ、今回の件で、正式に婚約。今年中には、結婚ってなるだろうね」
お父様をなだめるのに、お母様が苦労しそう。まぁ、ディアン兄様は家を継ぐから残りはするんだろうけど。自分との時間が減るって嘆いてたなぁ。……元々、そんなないだろうに。
「ディアンとブラントは、公爵似だね。そう考えると、ミシェリアは母親似?」
「?」
「性格?っていうのかな?」
あぁ、なるほど。顔立ちはディアン兄様と私は母親似。ブラント兄様は父親似。
性格は、確かに父親の血が強く、ディアン兄様もブラント兄様も父親似かな。たまに母の血が、垣間見える時があるけど。
私は。
「お母様と似たところもお父様に似たところもある気がするけど、自分ではよく分からないなぁ」
私は、前世があるからなぁ。ごちゃ混ぜになってそうだなぁ。
「セディ様は、見た目は……瞳の色以外は皇妃様似ね。性格は、皇帝陛下に似てる気がしたんだけど、どう?」
「はは、そうだね」
セディ様の顔が陰った。……地雷踏んだ!?
「え、えっと」
「いや、瞳の色が……」
「?……あぁ」
多種多様な種族が混在するこの世界で、人間が治める国は全部で5つ。小説の舞台となる時代は、各国の王、5人共に青い瞳を持って生まれる厄災の代。
セディ様の瞳も、例に漏れず、両親とは違って青い。
あ、青い瞳が厄災なんじゃないよ?来たる厄災から守るために、厄災に対抗出来る王族が青い瞳で生まれてくるって設定。
「あれ?」
セディ様が生まれたのって、この国に危機が迫ってるってこと?どんな危機?例の戦争?いや、まず、徹底して鎖国してたのに、なんで戦争に?小説では、急にセディ様が喧嘩売ってきたみたいな書き方だった。え?意味分かんない。セディ様、そんな性格じゃなくない?
「食糧難?」
戦争の理由としては、ありか?セディ様、領土拡張とか変なことは考えてなさそうだし。
「恋……」
そういえば、初めて小説にセディ様が出てきた時は、どっかで主人公と会ってて、主人公を略奪しようとしてるんじゃないかって思いながら読んだなぁ。まぁ、恋愛小説だったし。でも、そんな描写一切なく、セディ様死んだなぁ。
調べてみますか。
そう決め込んで、目を閉じた。とりあえず、今は寝る!
いつの間にかスヤスヤ眠りについたミシェリア。隣で、ミシェリアの独り言の意味が分からず寝るに寝れない男がいるとも知らずに。
─────次の日からは、時間がある限り図書室に入り浸った。妃教育では、皇国の現環境についても聞きまくり。
結果。ますます謎が深まった。
この国、自治が完璧過ぎる。無駄を省いて、効率的に国民へ。現代日本よりずっといい環境を、自国で保っている。
「戦争要素無っ!!」
だいたい、戦争を選ぶ意味が分からない。この国、山々に囲まれて、宝石大国だし。他の国でも、価値あるでしょ。交渉でいいじゃんね?
「意味わからん。が!ここで諦める私じゃないわ!」
ふふふ、こうなったらとことんやってやる!
侍女のパメラたちの目を盗み、部屋に篭っていると思わせて、私は部屋を出る。
ま、見られた所でバレる気など毛頭ないが。
なぜなら今の私は、メイドだから。こっそり調達しておいたメイド服に、変装メイク、仕上げにお嬢様らしからぬボサボサの髪型セット。
いやぁ、こんな所で私の不器用さが役に立つとは。
にしても、なんでメイクして、元の顔よりブスになるんだろ?真面目にやって、こうなるの。なんで?私、ある意味すごいのかもしれない……あ、悲しくなってきた……。女として、悲しくなってきた。
「ちょっと、あんた新人?」
「は、はいっ!?」
今の私と同じ服だから、メイドさん?うわぁ、美人は美人でも、パメラと違ってカッコイイ系だ。
「すみません、迷ってしまって……」
「分かるけど、何があったらこんなとこに。はぁ、まぁいいわ。手を貸してほしいの、ついてきて」
「はい」
もしかしたら、不審者扱いされたりするかもって思ったが、流石は鎖国中の国。警備は緩いし、みんな警戒心って言葉を知らないみたい。王宮がコレって……大丈夫?この国。
ま、今の私にはこんなにオイシイことは無いんだけど。
メイドに変装、一日目。
妃教育が予定よりだいぶ進んでいるからと、休日をもらい、部屋に籠っていることになっている私、ミシェリアは今、洗濯を手伝っています。
正直に言いましょう。洗濯機欲しいーー!!
手洗い、キツいよぉ。まだ、初夏で良かったのかもだけど。ホント、冬じゃなくて良かった。とも思うけど!キツいよぉ。
貴族としてのお勉強も大変だけど、侍女やメイドも結構大変だわぁ。……いつも、ありがとうございます。と、しみじみ感じる今日この頃です。
「ねぇ、あなた、名前は?」
「えっ、あっ……ミ、ミアって呼んでください」
最初と最後って、安直〜。安直すぎるよ、私〜。
「ミアね。私はカミラよ」
声をかけてくれた先輩メイドのカミラさんは、少し気が強そうなカッコイイ感じの女の人。でも、ちゃんと仕事を教えてくれたし、これぞ姉御肌って感じ?
「俺は料理見習いのロイドだよ」
「っ!?」
わっ、びくっりした。厨房の制服ってことは、コックさん?
「カミラ〜、その仕事終わったらでいいから、手伝いに来て欲しくて」
「またぁ?……もう、これが終わったらね」
「やった!助かるよ。早く来てね」
「ハイハイ。とっとと行って」
カミラさんは手でシッシッとロイドさんを追いやっている。よくあることなのかな?ふふ、仲良いなぁ?
その後、カミラさんは慣れた手つきで洗濯物の山を片付け、私の分の洗濯物も手伝ってくれた。実際、私ほとんど役に立ってない気がする……。ごめんなさい、そしてありがとうございます。
「さ、次は厨房に手伝いに行くわよ」
「はい!」
「カミラさんは、どのくらいここで働いていらっしゃるんですか?」
カミラさんの助けを受け、何とか終わった洗濯の後は、ロイドさんのいる厨房へ手伝いだそう。沈黙が嫌で、質問してみる。
「そう歳も変わらないんだから、そんなにかしこまらないでよ。貴族じゃないんだから。私は今、3年目よ」
カミラさん。可笑しそう笑っていらっしゃるところ申し訳無いのですが、……私、貴族なんですよ。というか、皇太子妃ですよぉ。
コレって、ある意味騙してることになるのかな。それは、ごめんなさい。
王宮勤め3年目だからか、カミラさんは、だだっ広いこの王宮で迷うことなく厨房へと私を連れて行ってくれた。
「よく覚えられますね」
カミラさん曰く、覚えてしまえば簡単だって。私には覚えられる自信が無いよ。
なんて考えてると、厨房に着いてしまった。あぁ、もう覚えてない。もう洗濯場まで行ける気しない。
「こんにちは!!お手伝いに来ました!」
カミラさんは明るい声で厨房に入っていく。私はよく分からないまま、カミラさんの後を追った。
「おっ、カミラと……えっと、ミアちゃんだっけ?来てくれてありがとう」
こちらに気づいたロイドさんが挨拶してくれるが、すっごく忙しそう。もうすぐお昼ですもんね。
「食材切るの手伝って」
「はい」
カミラさんに何をするのか聞いて、包丁を手に取った。
さて、とりあえず、皮むきね。・・・え?ピーラーは?
私の手には、右手に包丁、左手には皮が着いたままのじゃがいもがある。皮をむくように言われたんですが、包丁でやんの?小学校以来なんですが?マジかぁ。
小学校の頃、リンゴの皮を包丁で取らされたのを思い出しながら、皮をむき始めた。
────グサッ
思いっきり実までいった。
無理ゲーじゃない?と思って、カミラさんに声をかけようと横を向くと、これまた慣れた手つきで、カミラさんはじゃがいもの皮をスルスル剥いていた。
姐さん!いや、お母さん!マジで!?
カミラさんの手際の良さに驚いていると、私の視線に気づいたのか、カミラさんと目が合った。
初めは、「なに?」って感じだったけど、私の手元を見て「うわぁぁ」って言いたげな死んだ目になる。確かに私の手には、ボコボコで所々皮が残っているムダに小さくなったじゃがいもが握られているが……そんな目で見ないでぇ!
「えーーー、分かったわ。剥き方は今度教えるとして、今日は私が皮を剥ぐから、それを8等分くらいに切ってくれる?」
「ありがとうございます……」
カミラさんは私を罵倒するようなことはなく、私に別の仕事を割り振ってくれた。なんていい人なんだろう。
「おつかれ〜」
昼食の準備が一段落付き、ロイドさんが私たちに昼食を持ってきてくれた。
王宮の人の昼食の残りものだそう。
「今日は皇太子妃様が昼食はいらない、って言ってたとかで残ってな」
そう、今日は一日中寝て休むから、昼食の時間でも声をかけないでって言ってある。せっかく用意してくれたのに、ごめんなさい。その分、ここで食いますから許してください。
と思ったんだけど、なんかヘルシーというか、質素というか……?え、ダイジョブ?これ。
ロイドさんの用意してくれた昼食は、正直残り物感が凄かった。
皇太子妃の私の食事は、「こんな食えねぇよ」ってなるくらい多かったのに。残ったものは城の使用人の食事になるってパメラが言ってたっけ。でも質素過ぎない?
みんな文句も言わず食ってるけど、あんなに大変な仕事した後に、パンとスープと野菜が少々って……。この労働環境は、普通なの?ブラック過ぎない?
と、少しの疑問を抱えながら、私は食事をいただいた。
─────その後は上手くカミラさんたちから離れ、誰にも見つからないように部屋に戻った。
本当に、この国の警備がザルすぎて心配になるわ……。
メイドから寝巻き姿の皇太子妃に戻って、夕飯の時間になるまで時間を潰した。と言っても、色々と考え事をしていただけだけど。
「カミラさんともう少し仲良くなったら、色々聞いてみようかな」