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悪の組織にいたらしい女の子が好みだったので、同居することにしました。  作者: 四季


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79話 年越しそば、そして……

「日和、年越しそばできたわよー」


 遠くから母親の声が聞こえたら、リビングへ向かわなくてはならない。


 それは毎年のことだ。


 私は立ち上がり、まだ教科書を読んでいるリリィに「行こっか」と声をかけるーーと、リリィは僅かに面を持ち上げ不思議そうな視線をこちらへ送る。


 そうか、説明が必要か。


 この国ではそれなりに普通に存在している年越しそば。しかし、どんな世界にも存在する文化かというと、それは違うだろう。この世のすべての国で行われているというわけではないし、先進国だけ見ても年越しそば文化のある国なんて少数なはず。


 どこか違う世界から来たリリィが知っているわけもない。


「年越しそば食べに行こうよ」

「そば……? 年、越し……?」


 困惑したような顔をするリリィ。


「うん! この国には年を越す直前にそばを食べる文化があるんだ!」


 取り敢えず簡単に説明しておく。

 上手く伝えられているかは分からないけれど。


「意味不明。いきなりそばとか……」

「一緒に行かない?」

「そばを食べに……? 今から……?」

「母が作ってくれるの! 美味しいよ!」


 するとリリィは読んでいた教科書をそっと床に置いた。

 すっと立ち上がる。


「分かった、行く」


 リリィは確かにそう言った。


「ありがとう!」

「……行くならさっさと行こ」

「うん! そうだね! しゅっぱーっつ!」


 その後、私は母親とリリィと三人で一箇所に集まり、年越しそばを食べた。

 今年も作ってくれたのは母親だ。

 黒っぽい汁の中に茹でられたそばが入っていて、具は鴨とネギ、味はやや濃いめ。


「リリィ! 味はどう?」

「美味しい」

「でしょー!」


 リリィは年越しそばを気に入ってくれているようだった。



 ◆



 年越しそばを食べ腹をある程度膨らませて、私とリリィは部屋へと戻る。

 扉を開けた瞬間に感じるのは暖房の風。


「あーっ、今年も美味しかったぁー!」

「うん」

「リリィが気に入ってくれて良かった!」

「あれは間違いなく美味しい」

「ねー! 分かってもらえて嬉しいなぁ」


 私はベッドにごろりと寝転ぶ。

 腹が満ちている時に横になると、とても幸せな気分になる。


「ねぇリリィ」


 何でもない天井を眺めつつ口を開く。


「……何」

「これからも一緒に生きてくれる?」


 重過ぎると怒られそうだけれど、心のままに尋ねてしまった。

 しかしリリィは怒らなかった。


「日和がそれでいいなら」


 リリィは視線をこちらへ向けることはしない。

 心なしか頬を赤らめている。


「あたしは一緒にいてもいいケド」


 私はそんなリリィに突撃。起き上がり彼女のところまで駆け寄る、その間数秒。そして私はリリィを強く抱き締めた。


「やったー! ありがとうー!」

「ちょ、く、苦し……」

「これからもよろしくねーっ!」


 ちょうどその時、新しい年を迎えた。


 私たち二人の日々はまだ始まったばかりだ。



◆終わり◆

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最終話『79話 年越しそば、そして……』まで拝読しました。 完結おめでとうございます! &お疲れさまでした! 悪の組織のメンバーもはじめは怖そうでしたが、根っからの悪人ではなさそうでよか…
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