7話 休日のお出掛け
休日、リリィと一緒に出掛けることにした。
といっても、リリィの方から話を振ってきたわけではない。少しでも楽しんでほしいという思いがあって、私の方から提案したのである。
リリィの外出着として選ばれたのは、私が持っていたワンピース。
私はもう数年着ていないものだ。しかし、どれを着るか選んでいる時、リリィがそれを気に入った。そのため、その紺色のワンピースを彼女に譲ることにした。
どのみちこのままクローゼットの奥に眠り続けるだけ。
それならば誰かが使った方がいい。
その方がワンピースだって喜ぶだろう、着られるために生まれてきたのだから。
「時間」
午前十時くらいに出発しよう、と、昨夜話していた。
リリィはそれをきちんと記憶していたらしく、十時になる直前に知らせてくれた。
「あ、本当だ。そろそろ行こっか」
リリィが着ているワンピースには、セーラー服を連想させるような大きめの襟があって、胸もとには手のひらより小さなポケットがついている。そのポケットにはスカイブルーの横線が二本走っていて、まるで夏を駆け抜けてゆくかのよう。肩のラインは丸みを帯びていない一方で、スカートの裾は半円を描くかのような緩やかなラインとなっている。
「……今さら道分からないとか言わないでよ」
「大丈夫だってー。さすがにそこまでぼんやりしてないってー」
一緒に暮らすようになって数日。私たちの距離は最初の頃より縮まった気がする。といっても、心の距離の計測器なんてものがあるわけではないので証拠はないのだけれど。ただ、リリィは最初より自然に話してくれるようになった、それは確かだ。
「あら、もう行くの?」
「うん」
「気をつけてね。リリィちゃんを守ってあげるのよ」
「分かってる。じゃ、いってきまーす」
こうして私はリリィと共に家を出た。
歩くこと十数分、最寄駅に到着。今日の目的地はここだ。最寄駅にあるショッピングモール、今日はここを歩き回る予定。ここなら私が詳しいから、リリィを不安にさせることなく楽しめるだろう。
「ここが……日和が言ってたところ?」
「そう! うちから一番近いショッピングモール!」
「ショッピング、モール……」
リリィは何か考え込むような顔をしていた。
「どうかした?」
尋ねると、リリィは慌てて顔を上げ首を横に振る。
「何でもない……!」
今のリリィの様子は明らかに不自然だった。本当に何でもないとは思えない。とすると、恐らく、言うほどのことはないというような意味なのだろう。彼女がそう言うなら、それを信じよう。
それからはいろんな店を見て回った。
派手な色みがやたらと多い雑貨屋や対照的に自然派な雰囲気の雑貨屋、百円均一ショップ、作り物の植木や家具を売っている店、文房具店など。
ここにはいろんな店があるので、見て回るだけでも飽きない。
私はよく来るからほとんどの店を知っているし見慣れているけれど、リリィにとっては新鮮なことの連続だっただろう。
一時間ほど歩き回り、少し疲れたところで、コーヒーショップに入る。
私がアイスティーを頼んだため、リリィも同じものを頼んだ。結果、コーヒーショップに入ったのに二人してアイスティーを飲むという妙なことになった。
「……買ってもらって、罪悪感」
そういえば、彼女は前にもそんなようなことを言っていた気がする。
「いいのいいの! 遠慮しないで!」
「ふん……ま、ありがと」
少し恥ずかしそうに笑みを浮かべて、リリィはストローへ唇を運ぶ。
その柔らかな唇が無機質なストローにぴたりと張り付くところを、私は、特に意味もなく眺めていた。
こうしてリリィと一緒にいることで気づいたことがある。それは、彼女が意外と目立っているということ。やはり髪色が珍しいからだろうか、視線を感じる気がする。私一人の時にも母親と二人の時にも感じないような視線を、今は感じるのだ。
「リリィちゃん、ちょっとお手洗い行ってきてもいい?」
「好きにして。あたしはここにいとくから」
「ありがとう! すぐ戻るから、待っててね」
私は自分用のアイスティーを置いて、近くのお手洗いへ走った。