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悪の組織にいたらしい女の子が好みだったので、同居することにしました。  作者: 四季


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77話 白身魚の切り身

「お仕事は最近どんな感じですー?」

「楽しくやってます!」

「まぁ、それは良かった。安心しました」

「お気遣いに感謝します……!」


 鍋を食べている間も母親はローザとよく喋っていた。言葉を交わしている時の二人は相性抜群、とても仲良さそうだ。まるで幼馴染みが親友かであるかのよう。二人の関係性というのは実に不思議なもので、ずっと昔から関わっていたかのように見える。


「スープの味がたまりませんねーっ」


 ローザはお椀を両手で持って傾けながら汁を飲む。

 飲み終えるとほわっとした顔をする。

 美味しいということを顔全体で表現しているかのようだ。


 だが彼が実に美味しそうに汁を飲み干すのも分からないではない。この汁、その味には、それだけの魅力があるのだ。


 まるでオーケストラが演奏しているかのような何層にもなっている味わい。

 ただ一つの味があるだけではなく、いくつもの味が同時に存在している。


「そうです?」

「そうですよ! 本当に美味で!」


 母親は両手の手のひらを顔の前で合わせて笑う。


「ふふ、褒めていただけると素直に嬉しいわー」


 どうやら母親はかなり喜んでいるようだ。

 もっとも、褒められれば嬉しいのは誰でもであるし、普通のことなのだけれど。


「日和、白身魚好きなの」

「え? あ、うん。鍋に入っているのは特に好きかな」


 こういう時の白身魚は出汁の味がしっかりついているので、個人的には非常に食べやすいと思う。


「あげる」


 リリィは自身の器をこちらへ差し出してくる。

 そこには大きめの白身魚の切り身がある。


「貰っていいの?」

「あげる」

「やったー! ありがとう!」


 白身魚の切り身はまだ鍋の中には残っている。それゆえ、敢えてリリィの分を貰う必要は欠片ほどもないのだけれど。ただ、リリィが自らこう言ってくれているのだから、貰わない理由なんてないだろう。


 ……もしかしたら食べたくないのかもしれないし。


 私は直接白身魚の切り身を箸で持ち上げた。

 そのまま口に含む。


「んー!」


 身のふわっとしつつも肉感がある感じ、出汁と魚本体の慎ましくも魅力的な味わい、それらの組み合わせがたまらない。


「美味しいー!」


 自然と声が出る。

 手を頬に当ててしまう。


 そんな私を見てリリィは「ふーん。ホントに好きなんだ」と発していた。


「うん! 好きだよ!」

「……そんなに?」

「うん! そんなに、だよ! だって美味しいもんー」

「ふーん、そうなんだ」


 リリィは好きではないのだろうか? 美味しいと感じないのだろうか? などと疑問に思いつつも、私は口腔内へ意識を戻す。


「ホントに好きそう」


 やや冷めたような顔でぽつりと呟くリリィ。


「好きだよ! 本当に! ……もしかして疑ってる?」

「別に変な意味じゃないケド」

「リリィは食べないの?」

「あたしはまぁ……今はちょっとそういう気分じゃない」

「そっかぁ」


 食べればきっと美味しいと感じるだろうに、惜しいなぁ。


 ぼんやりとそんなことを思いつつ軽く汁を飲む。


 この出汁の味だから美味しくないわけがないのに。

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