75話 誘われてやって来る
「誘っていただいてすみません! ありがとうございます!」
母親に誘われ鍋パーティーに参加することになったローザは、玄関先で、満面の笑みで明るい声を発する。
「急でごめんなさいねー」
ちなみに、玄関先で対応しているのは母親のみである。
私とリリィは少し距離があるところから、覗くようにして、こっそりと様子を確認している。
「いえいえ! お誘いとても嬉しいです!」
「ふふ。どうぞ、入って」
「感謝します! そして、お邪魔します!」
ローザは勢いよく頭を下げ一礼すると建物内へ足を進める。玄関で二つの靴を脱ぎ、母親に案内されるがままに家の中へと進む。
そして私たちとばったり出会ってしまうこととなった。
彼と顔を合わせるのは久々だ。
「あ……」
気まずそうな声を先に発したのはローザの方だった。
彼の視線はリリィではなく私へ向いている。
「お元気ですか」
気まずさの海を分断すべく、私は当たり障りのないことを発してみた。
「そうだね、元気元気」
「それは良かったです」
言葉を交わすのはそれで終わり。
会話がさらに続いていくということはない。
ローザは母親に案内されて歩いているので、その足が止まることはない。たとえ私という知人の顔を目にしたとしても、そこが変わることはないのだ。厳密には、止まれない、とも言える。母親に気づかれないよう自然に立ち止まるのは難しいこと。
「日和も来るのよー? 来れるー?」
通り過ぎてから母親がそんなことを言ってくる。
「うん分かったー」
私は普段通り返しておいた。
その後ローザを含む四人が席に着く。
リリィもローザも細かいことを言えばこの世界の人間ではない。一般人として生きてきた人物でもない。ただ、それでも今は、こうして並んだり向かい合ったりして近くにいる。それも、敵意を抱くことなく。
不思議なことだ。
生まれも育ちも生きてきた道も、そのほとんどが異なっているというのに、敵対せず共に生きているのだから。
「準備はおおよそできてるんですよー」
「わ! これが鍋ですか!」
「何です、それ。面白い反応ですね」
「あっ……」
母親とローザは仲良さげに言葉を交わしている。
何なら二人がくっつけばいいのに、なんて、若干思ってしまったりもする。
「リリィ、鍋楽しみだね!」
話しかけると溜め息をつかれた。
「呑気過ぎ」
呆れたような顔をされてしまった。
「えー。言い方ひどーい」
「何なワケ!? 喧嘩売ってるの!?」
「そんなわけないよ! リリィのこと大好きだもん!」
「……それはそれでやめてほしいわ」
母親は箸やスプーンなどを全員分持ってきてくれている。
こうして私がのんびり喋っている間も母親は用事をしてくれている、感謝せねば。
「もしかして照れてるー?」
「ちっ……違うしっ……!!」
「やっぱりだ」
「ああもう! 黙って!! いちいちうるさい!!」




