70話 二人だけのお風呂タイム
私とリリィは一緒に風呂に入ることになった。
いつもはシャワーだけで終わらせることも少なくないのだが、今日は二人で湯船に浸かることにした。
せっかく二人で入ったのにシャワーを浴びるだけ、というのは、さすがに意味不明過ぎるから。
二人でシャワーを浴びても狭くてややこしいだけだ。
「あったかーい!」
お湯に浸かると一気に身体が温まる。お湯の熱が皮膚から体内へ染み込んでゆくかのよう。湯の香りと共に全身が熱を帯びるのが感じ取れる。身体中の血管が開いていそうな、そんな気分。
「気持ちいいね!」
「……うん」
自宅の風呂に誰かと一緒に入ることなんてもうないだろうと思っていた。
親と入浴する年代でもないし。
けれども、人生とは不思議なもので、今こうしてリリィと二人で湯船に浸かっている。
「あ、香り玉入れれば良かったかな」
温もり出してからふと思った。
お湯から良い香りがすればもっと素敵だっただろうか、と。
「香り玉……?」
「入浴剤だよ! いろんな色と香りがお湯につくやつ!」
リリィは自分の右肩を左手の手のひらで触りつつ返してくる。
「べつに要らないんじゃない」
そっけない言い方だった。
「えー! 驚きの意見出てきたー!」
「騒がしいって」
「ごめーん。でもでも意外でー」
「香り玉を要らないって言ったから?」
「うん! そう!」
もっとも、良い香りなんてなくてもリリィと一緒にいられれば問題ないのだが。
「どうしてもって感じなら今から入れれば?べつに嫌とかじゃないし」
それにしてもリリィの髪は綺麗だ。エメラルドグリーンという、この国では滅多に見かけない色の髪ではあるけれど。それでも美しい。染め上げた絹糸のよう。
「あれは先入れタイプなんだよね」
「……後から入れたら駄目ってワケ?」
「駄目ってことはないけど、どうしても後入れにすると気になるんだ」
「ふーん。そ。案外真面目なんだ」
「そんなことないよ! リリィも知ってるでしょ? でも妙なところだけ気になっちゃうんだ」
大切な人と、どうでもいいようなことを話しながら、湯の温もりを楽しむ。
これぞ娯楽の頂点。
いや、決めつけは良くないし個人差はあるだろうが。
ただ、今の私にとっては、これが頂点で最高。それは紛れもなく事実だし、この先それが事実でなくなることはない。ただし、これより最高な何かが生まれてくるということは考えられるけれど。
「それにしても気持ちいいね!」
「……まぁね」
「えー! 何その言い方ー!」
「気持ちいい、って言ってるんだケド」
「そっか! 嬉しいな!」
温まると自然と顔も赤らんで。リリィの顔面も最初より心なしか赤らんでいるように感じる。気のせいではないはずだ。その赤らみがお湯の熱によるものだということは知っているけれど、それでも何となく特別感があって、嬉しさが感じられてくる。
「リリィお風呂浸かるの好き?」
「普通」
爪先を軽く動かせば、水面も揺れる。
「嫌いではない?」
「ま、ね」
「そっか! じゃあさ、また一緒に入らない? 時間ある日だけでも!」
「べつにそれぐらいいいケド……」
「オッケー! 決まりだね!」




