65話 準備が遅れてまさかの居残り
学園祭の日が近づいてくる。
もたもたしてはいられない。だがまだ進んでいない。というのも、私を含む班の展示作品の作成が、他よりかなり遅れてしまっているのだ。もう日数がないというのに。
そして私は居残ることになった。
夢見さんと共に。
「ごめんね、はなちゃん。残ってもらっちゃって」
「ううん。気にしないで」
小雪は用事があるらしく先に帰ってしまった。そのことを話すと、夢見さんは自分も残ると言ってくれて。それで今、二人で展示物を作っている。
放課後の教室は少し寂しい。
普段はあんなに賑やかな場所が今は静まり返っているのだから、不思議なことだ。
「この紙使っていいよね!」
「うん」
「太ペンも借りるね!」
「うん、好きに使ってもらっていいよ」
表面が比較的つるりとしている大きな紙を広げる。目の前に広がる白。色づく前の無垢なものがテーブル上を埋め尽くす。見本になる紙を手元に置き、すぐ傍に置いてあった黒の太いペンを握りキャップを外す。
ペン先が紙に触れる。
滲みができないように手早く文字を書き進めなくてはならない。
緊張感が全身を包み込む。
間違えないように気をつけて、一文字ずつ確実に、けれどもほどよくスピーディーに。
「書けたーっ!」
これにてひと段落。
とはいえまだ終わりは遠い。
「もう終わったの? 凄い」
「二行だけね」
「そ、そうだったんだ……」
妙なところで気を遣われてしまった。
「ごめん! ちょっと休憩するね!」
「いいよ」
私が椅子に座って寛いでいる間も、夢見さんはずっと手を動かしていた。ちなみに彼女は糊を使って貼り付ける作業を行ってくれている。文字を書く作業の方が緊張感はあるのだけれど、糊を使う作業もかなり大変なはずだ。糊が指先を汚すだろうし。けれども夢見さんは文句の一つも言わない。淡々と、着実に、作業を進めていっている。
「手伝おっか?」
「大丈夫」
「本当にー? 疲れてないー?」
「ううん、そこそこ楽しいよ」
夢見さんはほどよく集中していた。私が何か話しかければ言葉を返してくれるけれど、その間も基本的には手を止めることはしない。夢見さんは、できない理由なんて探さずに、ただひたすらに一つ一つ作業を進めていっている。それこそ、塵が積もるかのように。
そんな彼女の姿を目にしたら、いつまでもこんな風にだらけていては駄目だと思えてきた。
私は再び大きな紙の前へ戻る。
どんなに険しい道も、一つ一つ足を前に出すことでしか前へは進めない。これもそれと似たようなもの。辛くても、厳しくても、一つずつ進めていくことでしか完成には近づけない。
「よーし、やーるぞーっ!」
気合いを入れ直し、ペンを手にする。
心を燃やせ。
前を見据えて。




