64話 ふと思い立って
「ねぇリリィ、これからもずっと一緒に暮らしてくれる?」
ある日のこと、自室にて、ふと思い立って尋ねてみた。
何をするでもない暇な時のことだ。
私は勉強机のすぐそばにある椅子に腰掛けている。何かをしているということはなく、何かを持っているということもない。椅子に座ったまま天井をぼんやり眺めている、ただそれだけ。
「え。いきなり何」
ベッドに座り数学の問題集を読んでいたリリィは、戸惑ったように面を上げる。
「それは何の質問? ……意図が分かんないんだケド」
「ふと思ったんだ」
「……ふと?」
問題集は手にしたままこちらへ視線を向けていたリリィは首を傾げる。
「うん、そう。私はこれからもずっと一緒にいたいけど、本当に一緒にいられるのかなって、少し気になったんだ」
「ふーん……。そ」
リリィはずっとこの世界にいた者ではない。だからこそ、いつの日かまたここからいなくなってしまうのではないかと、時々不安になったりもする。
彼女と出会って初めての感情を抱いた。
今まで知らなかった感情を知った。
いつまでも共にありたい。たとえ喧嘩したとしても、仲直りして。少しずつ絆を深めて、いつかは、本当の意味で通じ合える家族になりたい。
「リリィはどういうつもりでいてる?」
「そんなこと聞かれても」
「現時点での気持ちでいいよ。だから教えて」
するとリリィは視線を逸らした。
「……いつまでも世話になってばっかりというわけにはいかないと思ってる」
目を伏せた彼女は哀愁を絵に描いたかのよう。
「いずれ出ていくつもり……ってこと?」
「そうしなくちゃ」
「そんなの駄目!」
私は思わず叫んでしまった。
「……って、ごめん。私に強制できる権限なんてないよね」
選ぶのは私じゃない。
リリィの人生はリリィ自身が選び進んでゆくものだ。
でも、それでも、私はリリィと離れたくない。リリィが選ぶ道を遮るようなことはしたくないけれど、それと同じくらいいつまでも一緒にいたいと望んでいる。私にとってリリィは何より大切な存在だから。
「でも。ずっと一緒にいたい、それが私の本音だよ。本当の気持ちだよ」
どんな結末になるとしても後悔だけはしたくない。
だから私は本心を告げておいた。
たとえ結末が別れだとしても、あの時本当の気持ちを言えなかった、という後悔だけはしたくない。
「感謝はしてる」
「いつかここからいなくなってしまう? そのつもり?」
「まぁ……詳しくは特には決めてないケド」
「お願い! ここにいて!」
するとリリィは目を細めた。
「……そんなに必死になること?」
よく分からない、とでも言いたげな顔。
「うん! 必死になること!」
「そうは思えないケド」
「リリィにとってはそうだとしても、私にとっては大切なことなんだよ」
運命に導かれるかのように出会ったあの時から、想いは変わらない。いや、むしろ、この胸に在る想いは日に日に強まってきているようにさえ感じられる。もう昔には戻れないし、戻りたくない。
「そ。じゃ、もう少し考えとく」
「ホント!?」
「嘘はつかないケド……だったら何?」
「ヤッタ! キタ!」
「ちょ、意味不明過ぎ」




