57話 そんな感じでいいのか?
何しに来てん、というやつで。
結局女性は自ら去っていった。
まさか、ローザの気持ちを伝えに来たのか? 彼が隠しているもの、胸に秘めたものを、どうしても伝えたかったのか? どこまでも謎だ。攻撃しに来たかあるいは何か仕掛けに来たか、そんなところかと思っていたけれど、そうではなかったのか? いや、もちろん、途中で気が変わったという可能性もないことはないが。
ただ、何にせよ、敵は去った。
これでもう命の危険はないはずだ。
「……怪我はない?」
辺りが静まり返ると、リリィが駆け寄ってきた。
「う、うん! 大丈夫! リリィは?」
「問題なし」
「良かったぁー」
リリィこそ、である。
なんせ彼女は私と違って敵に対峙していたのだ、あの感じだと怪我してもおかしくはなかっただろう。一歩間違えば大怪我ということも考えられた。
「……で、ローザ」
リリィはくるりと身体の向きを変え、まだ地面に膝をついているローザへ視線を向ける。
その視線は凄まじく冷ややかなものだ。
まるで目から氷の剣を生やしているかのよう。
「日和に絡んで何を企んでるワケ!」
「何も企んでな——」
「信じられない! そんな言葉!」
リリィはローザの主張を聞こうとはしない。
「前から色々おかしいし怪しいと思ってたケド、今回が一番怪しい! それに意味不明!」
厳しい言葉をかけられたローザはすっかり落ち込んでしまったようだ。地面に腰を落としたまま両手の手のひらをアスファルトにつけ、肩を落として小さくなっている。
「ホントいい加減にして!」
「……悪かったって」
「日和に一目惚れとか! そんなの! 今さら言ったって遅いから!」
リリィは妙に好戦的な言い方をする。
まるで競っているかのように。
「そう怒らないでよー」
今のローザは、宿題を忘れ教師に叱られていじける男子小学生に似ている。
縮みつつも唇を尖らせたりして。
「怒る!」
「えええ……さ、さすがに……理不尽……過ぎる……」
「言っとくケド、日和が一番大事にしてくれてるのはあたしだから!」
「え、何て?」
理解不能とでも言いたげな顔をするローザ。
「ね!? そうでしょ!?」
リリィは急にこちらへ振ってきた。
「う、うん」
「好きって言ってたもんね」
「うん! 好き!」
迷いなく答えると、リリィは勝ち誇ったような顔をしてローザを見る。
「ほらね」
いやいや、何なんだこの会は。
もはや何がどうなっているのか理解できない。
どちらが好かれているとか、そういう話だったのか? だとしたら、私は最初から正しく理解できていなかったということになる。だが、リリィは女でローザは男だが、比べるべきなのか? どっちの勝ち、みたいな、そんな感じでいいのか?




