55話 彼女の本当の怖さは
冗談を言っている場合ではない。犠牲者を出さないため、何とか対処しなくては。といっても、相手はこの世の者ではないのだ、対処が難しい。
家に帰って親に言う?
できればこれは避けたい。母親を巻き込むことになってしまうから。女性は謎に満ちている、巻き込まれたら母親が何をされるか分からない。それは嫌だ。
ならば警察に連絡する?
いや、もし女性に逃げられたら、私がおかしな人扱いされてしまいそう。それはそれで心が痛む。それに、警察といっても一般人だ。女性がその気になったら、もしかしたら殺されてしまうかもしれない。
一般人に頼るのはさすがにまずい。
大きな賭け過ぎる。
「退きなさい、リリィ」
「嫌」
「そう。……なら強制的に」
女性は片手を前方へ伸ばす。すると手のひらから赤黒い渦のようなものが発生した。手のひらはリリィにかざされている。
「消えな! 生意気な小娘!」
数秒後、その赤黒い渦ものが、リリィに向かって飛んだ。
だがリリィはそれを刀状にした手で切り払う。
リリィの手にはエメラルドグリーンの光のようなものが宿っている。
「従う気とかゼロだから」
リリィにも特別な能力があったのか。後ろから眺めつつ、私は密かに驚いていた。リリィが悪の組織にいたということは聞いていたけれど、こんな特殊能力を使うところは見たことがなかったように思う。
「殺されたいの」
ぽつりと呟き静かに威嚇するリリィ。
「必死ね。もしかして、アンタも惚れてるの?」
威嚇するリリィを見て、女性はそんなことを言い出す。
それに対し怪訝な顔をするリリィ。
「……も?」
リリィは睨んだままだがそれまで以上に眉間にしわを寄せる。
アンタも、の、も、に違和感を覚えたのだろうか。
「だってそうでしょ。ローザだってその娘がす——」
「あー! あーあーあーっ!」
女性が発する文章を掻き消すように急に大きな声を発するローザ。
明らかに不自然だ。
「ちょっと、何よ」
「そういうことは言わなくていいって!」
「いいじゃない。だって事実でしょ? アンタは彼女に惚——」
「いー! うー! なー! てーっ!」
「……何よ馬鹿みたい、必死になっちゃって」
腕組みした女性は、はぁ、と呆れたように溜め息をつく。それからまだ地面に這わされているローザを一瞥し、その後、私の方へ視線を向けてきた。
「ま、簡単に言うと。ローザはアナタに惚れてんのよ」
「はい?」
「組織を抜けたのもアナタへの感情があってこそよ。まぁ、無能でクビっていう側面も、まったくないわけじゃないけれど……」
紅の塗られた妖艶な唇から放たれる言葉をすぐには理解できない。
「あの、意味がよく分からないのですが」
「あら鈍感。考えてもみなさいよ、色々不自然なことばかりじゃない」
「え?」
「校門前で待ってる、とか、家に訪問してくる、とか、近所に引っ越してくる、とか。普通考えて不自然だしあり得ないでしょう?」




