53話 好きは好き
「何それ、意味分かんない」
リリィは戸惑っているような顔をする。
今さらどうしてそんな顔をするのか。
私が彼女を気に入っていること、彼女に好意を抱いていること、すべて知っていたはずなのに。
「好きって、それだけ。純粋な気持ちだよ」
「別の意味に聞こえる……」
「それこそ何それだよ。好きは好き、普通のことだよ」
気持ちをそのまま伝えると、彼女は溜め息を長めの漏らす。
「はぁ……」
溜め息の意味がよく分からない。
「リリィ、こっち来てよ。のんびりだらけよう?」
「鬱陶しい!」
「もー。そう言わずにー」
リリィが素直でないのはいつものこと。だから一度や二度では諦めない。一度二度で諦めるようではリリィとは付き合えないと思う。
「教科書! この隠してた現代社会の教科書貸してあげるから!」
こういう時に備えて、隠しておいた教科書がある。
ある意味、これは『餌』だ。
物で釣るなんて卑怯と思われるかもしれないが、私はそうは思わない。これは、策。嘘をついていたわけでも騙したわけでもない、だから悪質な行為ではないはず。
「え……」
「こっちにおーいーでー」
「う……も、もう! 分かったから! 行くから!」
「やったー」
それから私たちはベッドの上で怠惰に過ごした。
特別ないちゃつきはない。ただ、お互い警戒することなく、迷いなく近くにいられる。寄り添っていられる。
見つめ合って、言葉を交わして、傍にいる。
たったそれだけのことだが、私にとっては大きな喜びだ。
「そうだ。リリィ、今度さ、また出掛けない?」
ふと思い立ち提案してみることに。
「まぁいいケド……」
「嫌だったらそう言って」
「ううん、べつに、嫌ってワケじゃない」
「良かった! じゃあ行こうよ! 週末とかどう?」
「ショッピングモール?」
「うん! きっとそれが楽しいよ!」
「分かった」
話はまとまった。
これでまた頑張れる。
そして、ついに週末がやって来る。
出掛ける約束をしてからは時が過ぎるのが早かった。やはり報酬があるとなるとやる気が変わってくるのかもしれない。
昼頃、私はリリィと二人家を出る。
すると偶然ローザと出会った。
「あ。こんにちは」
「やぁ!」
リリィは不満そうな顔をしているが、無視することもできず、何となく会話が始まってしまう。
「どうなさったんですか? そんなところで」
「実はお土産があってね」
「お土産? そうなんですか……」
「はい」
そう言って彼が差し出したのは、やはり薔薇。
またかい! と突っ込みたくなったことは自分の中でだけの秘密にしておこう。
「あの……今から出掛けるので、このタイミングで渡されても困ります」
「分かった。じゃ、家の方に渡しておくよ」
それで解決になっているのかよく分からないけれど。
取り敢えず今受け取るよりかはましだろう。




