42話 食べやすく馴染みやすい和食
リリィは刺身こんにゃくの酢味噌和えを気に入ったようで、あっという間に平らげた。それで勢いがついたのか、リリィはそれから、急激に食べられる気分になったようで。その後出てきた料理たちもさくさく食べ進めていた。
「すっかり気に入ってるね!」
個室の外まで届いてしまわない程度の大きめの声でリリィに話しかけてみる。
「……そんなんじゃないし」
リリィはこの時ですら素直でなかった。
気に入っていると簡単に認めはしない。
「美味しいよね! 全部」
「それは確かに」
和食というと若者には人気が低いようなイメージがある。いや、事実、その傾向はあるだろう。いろんなジャンルの料理が身近に存在している今、小さい頃から和食が好きという者は多くないはずだ。当然和食好きもいないわけではないだろうが。ただ、和食というと、歳を重ねてから魅力を感じるようになることが少なくないはずだ。
けれどもここの和食は若くてもすんなり受け入れられる。
食べやすく、馴染みやすい。
繊細かつ深みのある味わいながら、薄味に感じることはない。そんなほどよいバランスの味付けが見事である。
「露澤さんは今はどこかに勤めてられるのですか?」
「あ、はい。少しだけバイトとやらを」
「バイトとやら……?」
「あっ、いえっ。ええと、つまり……あぁっすみません、表現が色々おかしくて」
「いえいえ! 責める気はないんです。どうか気にしないでちょうだい」
ローザと母親は言葉を交わしている。
ずっと前から友達だったかのよう。
「確か、以前は別のところに勤めていらっしゃったんですよね?」
「はい」
「どのようなところに勤めていらっしゃったのですか?」
「あー……」
いきなり踏み込んだことを問われたローザは考えるような顔をする。
悪の組織を彼はどう説明するのだろう? それも、何も知らない相手に対して。そこは気になるところだ。思いきってそのまま言うのか? あるいは、まったくの嘘を答えるのか?
「ブラック企業だったので色々困りましたよー。なかなか辛かったですねー」
そう来たか。
「まぁ……それは大変でしたね」
「ノルマを達成できなかったら罰を与えられるし、他にも色々。とにかく大変でした。最終的にはクビになったんですけど、ある意味良かったかもしれないなーって思います」
それなりにまともな会話になっている……!
ある意味凄い……!
「どうかゆっくり休んでくださいね」
「あ、なんかすみません。心配かけてしまって。大丈夫なんですー、今はもうすっかり元気で毎日楽しくてー」
「それは良かった」
きっと彼には彼の苦労があったのだろう。悪の組織と言っても仲良しこよしではない、嫌なことや疲れることもあったのだろう。いや、むしろ、普通の組織よりそういうことは多かったかもしれない。悪の組織に勤めている人となると皆何らかの闇を抱えているだろうから。そこでの人間関係というのはきっととても複雑だろう。




