41話 和食レストラン?
リリィがひと眠りして目を覚ました頃、夕食の時間が近づいていた。
私たち三人は少しばかり支度をして夕食をとる予定にしているホテル内のレストランへと向かう。
ちなみに、和食レストランである。レストランといえば本来西洋料理を出す店だろうが、この店はそういう意味でレストランと名乗っているわけではないようだ。わざわざ和風レストランとしているのも、多分、そういう意味があってのことなのだろう。
ちなみに、これも、ローザが予約してくれていた。
「日和」
四人用の個室へ入り椅子に座った瞬間、リリィが話しかけてきた。
「和風レストランて何?」
椅子と椅子が離れていることもあり若干喋りづらい。
距離があるため、小さな声にしすぎると互いの声が聞こえない。しかし、だからといって大きな声で話すのは、外にまで聞こえて迷惑になりそうで申し訳ない。
こういう時はどうすればいいものなのか……。
「和食を食べられる場所じゃない?」
「ふーん。初めて来る」
「私も! ここは初めて。和食って意外とちゃんと食べることないなぁ」
その時、コースメニューを持った店員が来た。
配布されているクリーム色の紙には、おしゃれな字体で何やら色々書かれている。ただ、洋風な紙なのだが、文字自体は漢字である。そういうこともあって、かなり妙なことになっている。
どうやらもう内容は決まっているようだ。
選ぶわけではないらしい。
「……コース、メニュー?」
「うん」
「コースメニュー、か。何それ? 知らない」
「今からこういう料理が出てきますよーっていうことが書かれてるんだよ」
「ふーん」
「あまり興味ない?」
「べつに。そういうワケじゃないケド」
私はリリィとそんな風に言葉を交わしていた。
そのうちに一品目が出てくる。
真四角な器の中に小さな小鉢がいくつも並んでいる。小鉢の色や柄はそれぞれ違っているが、鮮やかさが揃っていることもあって視界がごちゃつくことはない。むしろ、見つめているだけで落ち着くような色みだ。
そして、いくつもの小鉢には、それぞれちょっとした料理が入っている。
季節の野菜をふんだんに使った前菜のようなもの。
「由香里さん、和食はお好きですか?」
箸へ手を伸ばしつつ尋ねたのはローザ。
ちなみに、由香里というのは、私の母親の名前である。
「えぇ。好きですよ。特に大人になってからは、この油っこくなさが食べやすくって」
母親は既に箸を手にしている。
リリィはというと、出てきた料理が見慣れていないものだからか戸惑っているようで。正体不明の敵が目の前に現れたかのような目で小鉢を見ていた。警戒心を隠そうともしていない。
「大丈夫? リリィ」
私は困っているリリィに小さめの声をかけてみる。
「……どれが食べられそうか分からない」
「嫌いなものはそっと残しておいてもいいよ」
「ちょっと食べづらい」
「どういうこと?」
リリィは和食を食べたことがないのだろうか? だから馴染みがなくて戸惑ってしまっているのだろうか? そういう可能性もないことはない、か。だが、それにしては、ローザは何の問題もなく食べ進んでいる。ローザは食べられるがリリィは食べられない、理由が何かあるのだろうか?
「……どれが食べられそうか、分からないし」
「そっかー。まぁ、取り敢えず、どれか食べてみたらどうかな。少し食べて大丈夫そうなら食べたらいいと思うよ」
「……まぁ、じゃ、試してみる」
そう言ってリリィが手を伸ばしたのは、刺身こんにゃくの酢味噌和え。
なぜそれを選択したのか……。
それなら大丈夫そうと思ったのだろうか……。
リリィは箸は使えるのに和食のことは怪しむ。それが私にはよく分からない。和食は好きだが箸を使えない、というのなら、その人の生まれ育った地域によっては考えられそうだが。




