37話 恥ずかしい、恥ずかしくない
夏休み中盤に入ると宿題もおおよそ片付いた。いや、もはや、ほぼ片付いたと言っても過言ではない。そのくらい宿題を終わらせることができた。ここまで進んでいれば怖いものなしだ。
そんなある日のこと。
ローザが訪ねてきた。
何の前触れもなくやって来た彼に対応したのは母親で、そのことを私の耳に入れたのは母親なのだが、何でもローザが旅行に行かないかと誘ってきたそうなのだ。最初にそれを聞いた時は、予想外過ぎて、ひっくり返りそうになった。
ただ、意外にも、母親はその気になっていて。
流れのままに私たちは旅行へ行くこととなった。私と母親、リリィ、ローザ。気づいた時には四人で行くことになっていた。ローザが決めたのか、母親が決めたのか、そこは知らないけれど。何にせよ、私とリリィに選択権はなかった。
「まっさかこんなことになるなんて、ね……」
私の自室にて、呆れたように言うのはリリィ。
「いきなりだったね」
「まったく……何企んでんだか……」
「企んではないんじゃない?」
「日和はホント信じすぎ! 親子揃って!」
リリィはまだローザをことを信じていないのか。彼が誘拐された私を助けてくれた一件以来、リリィのローザへの態度は少し柔らかくなった気もしていたのだが。もしかしたら、気のせいだったのかもしれない。私の都合の良い解釈に過ぎなかったのかもしれない。
「リリィはまだローザさんを信じていないの?」
「そんなすぐに信じられるワケないから」
「でも私のことは信じてくれたよね。それも初対面なのに」
すぐに素直にはなってくれなかったけれど、それでも、私を疑い続けるようなことはしなかった。わりとすぐに信頼してくれるようになった。だから、リリィだって、他人を信じられないというわけではないはずなのだ。
「日和とローザは違うから」
「もー、そんなこと言わないでー」
「そもそもが違うから!」
「まぁ出会い方は違ったけど……」
出会いの形は同じではなかった、それは事実だが。
それでも、少しくらい、信じようとは思えないものだろうか。できるなら信じてみたい、と考えることはないのだろうか。
「何にせよ、旅行楽しみだね!」
「流れが滅茶苦茶過ぎるって……」
それは私もよく分かっている。
滅茶苦茶な流れ過ぎるということくらい。
だが、時には勢いというのも、必要なのではないか。当然論理的思考も重要ではあるが。唐突な誘いに戸惑い怪しんでしまう気持ちも分かるが、決定してしまったものは仕方がない。ここからはいかに楽しむかを考える方が意味があるのではないか、と、個人的には思うのだが。
「でも楽しみなのは事実だよね?」
「旅行とか興味ないし」
「えー、そんなこと言わないでー。せっかくだし楽しもうよー」
「楽しめるワケないし! 気まずいし!」
私だって気まずいよ、ローザとはそんなに仲良くないし。
「私はリリィと一緒に行けるのは嬉しいよ」
「なっ……急に何、恥ずかしいこと言って……」
「恥ずかしくないよ。本心だもん」
「だ! か! ら! それが恥ずかしいんだってば! 言う方は良くても言われる方は恥ずかしいから!」




