30話 自宅への道のり
闇に飛び込み、吸い込まれる——。
そこで一瞬意識は途切れ。次に気がついた時、私は見慣れた街にいた。住宅街の中の舗装された道路、そこに、なぜか座り込んでいる。
直後、付近にいたローザに声をかけられる。
「怪我はない?」
これで無事逃れられたのだろうか。
取り敢えず生きてはいるようだが。
「あ……は、はい」
「じゃ、もう帰っていいよー」
「え」
そんな唐突な解散で良いものなのか。
「ここ、知ってるところだよね? 違う?」
「確かに知っていますけど……」
家の近くではない。が、近い地域ではある。毎日通る地点ではないものの、今までに数回は通過したことがある。ここから家まで帰る道のりも分からないことはない。
「せっかくだから一緒に行ってもいいかなー」
「はい?」
いきなり何かと思い、自然とやや失礼な声が漏れた。
「警戒しないで、帰り道が分からないだけだから。この辺のことはあまり知らなくてね」
どうやら私は怪しむような顔をしてしまっていたらしい。ローザは敵意がないことを伝えたいのか、少しばかり気を遣ったように言ってきた。
「確かにそれはそうですね。では一緒に帰りましょう」
「理解あるね、助かるー。ありがとうー」
こんな住宅街で二人並んで歩いていたら、通行人に驚かれてしまいそう。できれば通行人に出会う前に住宅街だけでも抜けたい。もう少し人通りのあるところへ出たら、目立ち具合も少しはましになるだろう。
空はもう夕暮れ時のような色みに変わりつつある。
この時期は日が傾き出してからもしばらくは明るい。冬場であればみるみるうちに暗くなるだろうけど、今の時期は暗くなるまで時間がある。それゆえ、すぐに真っ暗になることはないだろう。このまま順調にいけば、真っ暗になる前に家に着けるはず。
家の前の通りにたどり着くと、家の前でうろつく母親の姿が視界に入った。
きっと帰らない私を心配してくれているのだろう——遠くからでも、その心情は読み取れる。
「母さん!」
少しでも早く無事を伝えたい。大丈夫と、生きていると、伝えたい。これ以上心配させたくない。その一心で、まだ距離があるにもかかわらず私は叫んだ。
「……日和!」
母親は振り返り、驚いた顔をする。
「遅くなってごめん!」
ここまで来ればローザももう道に迷いはしないだろう。さすがにここから家までは分かるはずだ。そう考え、私は駆け出した。真っ直ぐに進み、母親の目の前で停止する。
「日和! どこへ行っていたの!?」
母親は涙目になっていた。
そんなに心配させてしまったのだとしたら、申し訳ない。
「実はちょっと誘拐されてて」
「誘拐!? ……え、ちょっと。な、何を言っているの……?」
「でももう大丈夫! ローザさ……違った、露澤さんが助けてくれたから!」
うっかりローザと言ってしまうところだった。
危ない危ない。
「露澤さん? あ。こんばんは、露澤さん」
その時になって母親はようやくローザの存在に気づいたようだった。
「こんばんはー」
ローザは軽やかに挨拶する。
「露澤さんも一緒だなんて、一体何が?」
「誘拐されるところを偶然見かけたので救出しました」
「えっ! 誘拐って本当の話だったんですか!」
「はい。物騒なこともあるものですね」
「そんな……。あ、でも、日和を助けてくださって助かりました。本当にありがとう」
「いえいえ」




