2話 使えないから、もう要らない
色々喋ってから、まだ何も注文していないことに気づく。混雑していない時間だとしても、さすがに無料の水だけで居座るのはまずい。ということで、何か注文することにした。
まだご飯の時間ではないから、食べるなら甘いものか。
そんなことを考えつつ、つるりとした表面のメニューを開く。
「リリィちゃん甘いもの平気?」
「ふん……何よ。そんなのどうでもいいでしょ」
何とか注文するものを選びたいのだが、リリィは乗り気ではなさそうだ。いや、もしかしたら、そうではないのかもしれない。というのも、メニューから選んで何かを頼むという仕組みをいまいち理解していないようなのだ。
外国でも飲食店くらいはありそうなものだけれど。
「食べない? パフェとかケーキとか」
「興味ないし」
「でも、お腹空いてるんじゃない? 奢るからさ! 何か頼も?」
リリィは少し黙った。
そして呟く。
「……もう構わないでよ」
きっと彼女には彼女の事情があるのだろう。私はまだ知らないことがたくさんあるのだろう。そう考えれば、私は馬鹿なことをしてしまっているのかもしれない。
やはり、少し踏み込んでみることも必要か。
申し訳なさもあるけれど。
「ねぇリリィちゃん!」
「何」
「リリィちゃんのこと、聞かせてくれない? 大丈夫な範囲でいいから」
「え……」
その時リリィはついに私を直視した。
視線が重なる。
「あ。その前にパフェ頼んじゃうね」
注文さえしてしまえばこちらのもの。少しでも注文していれば時間を潰しに来ているだけの迷惑客にもならないので、あとはゆっくり過ごせる。
「待って、まだ、話すとは……!」
「聞きたいなー」
「うっ……そんな風に、言われたら……」
比較的小さいチョコレートパフェを二つ注文してから、私は、リリィのこれまでに関する話を聞いた。
その内容は、まるで子ども向けファンタジー漫画風妄想であるかのようだった。しかしながら、話している彼女の顔は、嘘をついている人のそれではなくて。私には、真実を話しているようにしか見えない。話は色々ぶっ飛んでいるけれど。
リリィはまだ幼い頃に両親を亡くした。それからは親戚のうちを転々としていたが、可愛げがないと鬱陶しがられ、虐待まがいのことをされることが少なくなかったらしい。
そういう環境もあって荒れていた彼女の前に、ある日一人の男性が現れる。その男性は、悪の組織、と呼ばれるような組織の代表だった。彼は「我々の仲間になり、心の汚い人々に復讐したくはないか」と勧誘してきたそうだ。特に何をするでもなかったリリィは、流れのままにその話に乗ったという。
「……いろんな人たちに手を出して、よく分からない復讐を続けた。でも……任務を遂行できなくなって、それで……追放された……使えないから、もう要らないって」
俯いたリリィの瞳は潤んでいた。
「悪にすら居場所がないなら……あたし……どこへ行けばいいの……」
「じゃあうちへおいでよ!」
「……は?」
彼女は、理解できない、とでも言いたげな顔をする。
「辛いのに話してくれてありがとう。そういうことなら、今日から私の家に来ない? 良かったら、だけど。行くところがないんだったら、別れた後また困るでしょ?」
「べつに同情してほしいわけじゃっ……!」
「本格的に友達になろうよ。で、一緒に暮らそう。このアイデア、どうかな?」
「えええ……」
「あ、これはあくまで理想だから。嫌だったら無理しなくてもいいからね」