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悪の組織にいたらしい女の子が好みだったので、同居することにしました。  作者: 四季


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25話 素直じゃないなぁ

 お盆をひっくり返さないよう気をつけつつ歩く。

 こぼしてはならない、ということもあって、自然と日頃よりゆっくりな歩き方になる。


 慎重に慎重に。そう意識しておかなくてはうっかりやらかしてしまいそうだ。だから脳内で繰り返す。慎重に、転けないように、足もとと前を確認しつつ。そんな風に。


 そしてようやくたどり着く。

 部屋の前に。


「リリィ! ちょっといい? 開けてもらっていいかな?」


 扉が閉まっていたのでそう頼むと、数秒後、ゆっくり扉が開いた。

 リリィが開けてくれたのだ。

 彼女は扉を開けるなり私が持っているお盆の上に視線を向ける。そして瞳を輝かせた。子どものような純粋な、嬉しそうな顔。彼女は日頃は素直でないが、時折とてつもなく純粋な表情を浮かべる時がある。


「嬉しそうだね」

「ゼリー」

「好きだったっけ?」

「……ふ、ふん、べつに。欲しくて仕方ないとかじゃないし」


 リリィはぷいっとそっぽを向いて部屋の方へ進んでいく。


「もー素直じゃないなー」

「ほ、放っておいて! 関係ないでしょっ!」

「怒らないでよ」

「……べつに、怒ってはないし」


 私は勉強机の上にお盆を置く。するとリリィはてててと小走りで寄ってくる。そっぽを向いていたのなんてなかったかのよう。食べたい、と言わんばかりの顔つきで、ゼリーが入った透明な器を見つめている。


「ま、いいや! 食べよ!」

「そうする」

「リリィどっちがいい? どっちでもいいよ」

「……こっちにする」

「オッケー! じゃ、リリィはこっち、私はこっちね」


 商品としては二つとも同じものである。量に違いがあるわけではないし、どちらかの形が崩れているということも特にはない。

 つまり、どちらを選んでも同じ、ということだ。

 だから私は選択権を得ようとは思わない。リリィが欲しい方を選べばいい。それで何の問題もない。


 スプーンと器を受け取るなり、リリィはゼリーを食べ始めた。


 夢中になっている。

 とても美味しそうに食べてくれるから、見ているだけでも楽しい。


「美味しい?」

「うん」

「このゼリー美味しいよね! さ、私も食べよー」


 リリィはゼリーにありつけた。

 そろそろ私も食べ始めるとしよう。


 スプーンでゼリーの一部を抉り取れば、透き通ったゼリーがぷるんっと揺れる。まるで、柔らかい宝石。スプーンを掴む手をほんの少し動かすだけでもゼリーはぷりぷりと震える。


 口に含めば、駆け抜ける爽やかな桃の香り。

 とろけるような舌触り。


「食べ終わった」

「早っ!」

「……駄目?」

「ううん、駄目じゃないよ。ちょっとびっくりしただけ」


 私はまだ数口分残っている。

 ちょっと得した気分。


「……もしかして、欲しいの?」


 リリィに凝視されている。

 私が、ではなく、ゼリーが。


「そんなんじゃないし」

「欲しかったらあげるよ! はい!」

「……そ、そんな浅ましくないし。他人のまで欲しいとか……そんなんじゃないし」

「どうぞ!」

「う……あぁ、もうっ。仕方ないから貰ってあげるだけだからっ」


 相変わらず素直じゃないなぁ。

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