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1話 帰り道の出会い

「何かあったの? 大丈夫?」


 思えばそれが私たちの始まりだった。

 道で座り込んでいた彼女に話しかけた、ただそれだけのことが。



 ◆



 学校の帰り、いつも通る道に見慣れない少女の姿。日頃滅多に見かけないようなエメラルドグリーンの髪と瞳を持つ不思議な彼女は、アスファルトに両手をついて、すべてに絶望したかのように佇んでいた。


 そして今。

 私は彼女と共に近くのファミリーレストランにいる。


「それで、貴女、名前は?」

「……リリィ」


 紺色のゴスロリ風ワンピースを身にまとった彼女は、声をかけた私についてきたが、どうも機嫌が良くなさそう。


 何か理由があるのか。あるいは、単にいつもこういう振る舞いをしているのか。その辺りははっきりしない。なんせ今日出会ったばかりだから。


 それにしても、彼女はなぜこうも汚れているのだろう。

 よく見ると愛らしい顔立ちで肌も質が良いのに。


「リリィちゃん! 可愛い名前ね!」


 名前的に外国の方だろうか? と思っていると、彼女は低い声で述べる。


「こんなことして、何のつもり」

「え?」


 二人で使うには若干広く感じるテーブル、その上には透明なグラスが二つ。しかし何もおしゃれなものではない。どちらも水道水と氷が入っているだけ。

 御飯時から少しずれた時間ゆえ、客席の埋まりはいまいち。けれども今日に限ってはそれで良かった。否、それが良かった。もちろん私だけの問題ではない。リリィと名乗る彼女も、周りに人が少ない方が気が楽だろう。騒がしいのが好きなようには見えないから。


「哀れんでるつもりならいい加減にして。そんなの要らない」


 リリィは低めの声で放った。

 でも、正直、私には彼女の言うことが理解できない。


「哀れんでる? 違うわ。困ってるみたいだったから気になっただけよ」


 だって不自然ではないか。道の真ん中で座り込んで、周りに目もくれずじっとしているなんて。そんな人滅多にいない。だからこそ私は気になった。他の人たちとは根本的なところが違っているような彼女を放っておけなくて、それで、私は彼女に声をかけたのだ。


「……ふーん、気まぐれってワケ」


 リリィは自分用のグラスの水面をじっと見つめている。視線をそこから逸らすことはしない。そして、それはつまり、私を見てくれていないということ。彼女は私を見ようとしない。


「まだ心を開いてくれそうにはないわね」

「何よ、当然でしょ? 名乗りもしない奴を信じられるわけないから。馬鹿みたい」


 まだ名乗ってなかった!


 言われてから気づいた。


 それは不審に思われるはずだ。信じてもらえないはずだ。私だって、親切そうなふりをしながら自分のことを一切話さない人と出会ったら、きっとすんなりは信じられない。


「ごめん! 忘れてた! 私、浅間(あさま) 日和(ひより)っていうの。よろしく!」

「……ひより、ね」

「そう! ひよりって呼んで! 私はえーと……リリィちゃん呼びで良かったよね?」

「ま、好きにすれば」

「ありがとう! 良かったー、友達になれてー」

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