15話 何となく楽しい
あれからというもの、リリィはまた紺色のゴスロリ風ワンピースを着るようになった。
彼女はワンピースが清潔になったことを喜んでいた。それが何より嬉しかった。リリィが喜んでいること、リリィが嬉しそうな表情になっていること、それらが私にとっては最高の幸せである。
ただ、学校にいる間はリリィに会えないという問題だけは深刻だ。
しかしこればかりはどうしようもない。
生徒でないリリィを学校に同行させるなんてことはできない。それは当然のこと。誰かに相談したら解決する、というような問題でもない。
会いたくても、我慢するしかない。
「……まさん……浅間さん!」
「あ」
「急にごめんね」
話しかけてきたのは夢見さん。
以前はほとんど交流がないクラスメイトに過ぎなかったのだが、最近は時折喋ることもある。
夢見さんは大人しめな雰囲気をまとっているし、容姿も落ち着いた控え目な感じだ。クラスには茶髪気味になるよう髪を染めている生徒もいるが、彼女は地毛のままで黒髪。制服も着崩さない。思えば、彼女が風紀関連の注意を受けているところは見たことがない。
「最近不審者には会ってない? 大丈夫?」
「え。あ、うん。あれからは特に会ってないよ」
不審者というのは、恐らく、かつてリリィの同僚だったというあの男性のことだろう。
「なら良かった。実はね、それを確認したかっただけなんだ」
「そう」
「あ、あの、なんか急にごめんね……」
「そんな! 謝らないで!」
彼女に非はない。彼女はただ私のことを心配してくれただけではないか。だから謝る必要なんてない。
刹那、あることをふと思いつく。
「そうだ。ついでにちょっといいかな」
「いいよ」
幸い今は元々の友達が周りにいない。
今なら気を使うことなく夢見さんとゆっくり話せる。
「連絡先交換しない?」
「え。わたしと……ってこと、だよね……?」
夢見さんは驚いた顔をしていた。
突然過ぎただろうか。
「駄目かな」
「ううん、大丈夫。じゃあ交換しよう」
「本当に大丈夫?」
「う、うん! 大丈夫! ごめん、わたしこういうの慣れてなくて……だから、嫌なわけじゃないんだ」
こうして私たちは連絡先を交換した。
その日の晩、私は試験的に夢見さんとやり取りしてみていた。
互いに教えあった連絡先に間違いがなかったかを確認するためである。
互いに送り合うメッセージは特別なことなんて何もない内容ばかり。踏み込んだこととか深刻なこととかは書かない。気楽に軽く触れ合う程度の文字列を送り合うばかり。
ただ、こういう経験は久々で、何となく楽しい。
中学生になった頃はこういうことをよくしていた。友達と連絡先交換ができたことが嬉しくて、やたらとやり取りしたりもしていた。それは一種の娯楽のようなもので。楽しみつつ時間を潰していた。
でもこの年になるともうそういう遊びも減る。どうでもいいことを送り合うような機会もほぼなくなる。それに、メッセージを送り合うとしても話しづらい内容ばかりだったりして、真っ直ぐには楽しめないことも少なくはない。
だからこそ、夢見さんとのやり取りは、純粋な感じがして楽しかった。
「……何してるの、日和」
「あ、リリィ。ごめん。何か用だった?」
「べつにー、用とかじゃないしー」
「そう」
「ふん、何だか楽しそうにしちゃって……」