表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/80

13話 薔薇一輪

 校門前、差し出された一輪の薔薇が生徒たちの視線を奪う。

 無理もない。怪しさ満点学校の大人の男性がただの女子生徒に声をかけているのだから。こんなことが繰り広げられていたら、誰だって、気になって視線を向けてしまうだろう。


「あの……何のつもりですか」

「あげるよ」

「要りません。では失礼しま——」


 歩き出そうとした瞬間、手首を掴まれた。


「それ以上するなら通報しますよ」


 半ば無意識のうちに、私は彼を睨んでいた。

 触れるな、という気持ちが、自然に顔に出てしまっていたのかもしれない。


「えーどうして受け取ってくれないのかな?」


 いやいや、いきなりその発言はおかしいだろう。


 そもそも私たちは親しくも何ともないのだ。ただ一度ショッピングモール出会っただけ。それも、良い意味ではなく。敵に近い感覚で一回顔を合わせただけだ。そんな人から贈り物を貰う気など欠片ほどもない。


「どうしても何も、こんなところでいきなり渡されても困ります」

「じゃあ、前もって伝えておいたら受け取ってくれたのかな?」

「年下を虐めて楽しいですか。こういう嫌がらせをするのはやめてください」

「嫌がらせ? まっさか。違う」


 いつになったら解放されるのか……。


 一応まだ遅刻しそうな時間ではないけれど……。


「惚れちゃった、って言ったら、分かってくれる?」

「通報します」

「待て待て待て! 待ってって!」

「ではもう絡まないでください」

「あーうーん……いや、それも無理!」


 何をどうしろと。


「では、取り敢えず、今は見逃してください。そろそろ行きたいので」

「仕方ないなぁ、いいよ!」

「ありがとうございます。それでは」


 ひとまず離してもらえた。


 それでも、これで解決というわけではないから、まだ楽にはなれない。


 厄介事に巻き込まれなければ良いのだけれど。


 その後、私は無事教室にたどり着くことができたのだが、クラスメイトの一部に例の件を目撃されていたということもあって色々余計なことを言われた。


 浅間が年上の恋人連れてきてた、とか、校門前の不審者が浅間の知り合い、とか。

 前者は完璧な勘違いだし、後者も半分近く間違った話である。


 恋人うんぬんは論外としても。知り合いと言われるのも嬉しくない。知り合いと呼ばれるほど関わりがあったわけではないから。もっとも、あの場面だけ目撃した人なら勘違いするかもしれないことは理解しているけれど。


「ばいばい、日和。不審者には気をつけてー」

「その話、気に入ってるね」

「そりゃそうでしょ、面白いもんー。ま、でも、事件に巻き込まれないようにね。じゃねー」

「はーい」


 以前から仲が良かった友達は、帰りしな、さりげなく私を気遣ってくれていた。


 ただ、その日、あの男性に絡まれることはなかった。帰り道でまた会うことになるかもしれない、と溜め息をつきたい気分だったのだが、意外にも彼は現れなかった。


 幸運というか、不気味というか。

 だが、何にせよ、絡まれないのが一番良い。


「あ。おかえり、日和」


 家の前で待ってくれていたリリィは、今日も、しゃがみ込んで野良猫を観察していた。


「リリィちゃん、また待ってくれてたの?」

「何となく」

「ありがとう!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ