12話 世界は広がっていく
夢見さんと二人で登校する日が来るとは思わなかった。
ついこの前まで、ほとんど交流はなかった。クラスメイトであることは事実だし、名前や顔は知っていたけれど。でも、クラスでのグループは違っていたから、険悪ではないにしても親しくなる機会なんてないと思っていた。
けれども今、こうして隣り合って歩いている。
縁とはよく分からないものだ。
「浅間さんって、いつもこのくらいの時間に家出てる?」
「そうね。そんな感じ」
「そうなんだ」
「夢見さんは? いつもわりと早く教室に来てるわよね」
「うん、早めに起きるように努力してるんだ。特に意味はないけどね」
いざこうして言葉を交わしてみると、案外喋りやすい。
こんな風な関係も悪くないな、なんて思ったり。
今まで関わりがなかったタイプの人と関わるようになることの利点、それは、視野が広くなること。そんな気がする。敵対しているわけではなくても、関わりがないだけで相手の世界を見ることはない。でも、だからこそ、いざ関わりが生まれるとすべてが大きく変わる。今までの自分の世界と相手の世界が混じり重なって、見ている世界が拡張されるような感じ。
「ところで。さっきの子、可愛かったね」
「リリィちゃんっていうの」
「浅間さんはやっぱり人脈が凄いね」
「そんなことないわ」
「わたしから見たらかなり凄いことだけど……」
言葉を交わしつつ歩くこと十数分、校門が見えてくる。
見慣れた校門。生徒たちは何事もなかったかのように通り過ぎていっている。でも、いつもはない影があって、私は思わず足を止める。足を止めたのは、その影の正体に心当たりがあったから。
「浅間さん?」
校門の前に立っている人物。
恐らく、この前ショッピングモールで会った男性だ。
なぜ彼が学校の前にいるのか。理由も、目的も、よく分からない。リリィを探しに来たのだろうか。あるいは私に何かするつもりなのか。だが、何にせよ、夢見さんは彼に会わせない方が良い。関係者と思われたら今後何をされるか分からないから。
私が巻き込まれるのは仕方ない。
でも夢見さんまで巻き込まれるのは大問題だ。
「……あの、ごめん。ちょっと先に行ってもらっててもいいかな」
私はぴたりと足を止めたまま発した。
「え? どうしたの急に」
きょとんとする夢見さん。
「お願い、先に行ってて」
「あ……う、うん。分かった。じゃあ、またね」
暫し困惑したような顔をしていたが、夢見さんは一人歩き出した。
これで取り敢えず彼女は安全だろう。
私は立ち止まったまま、念のため夢見さんの様子を確認しておく。彼女は一人淡々と歩き、校門を通過した。校門前に立つ男性には特に何もされていなかった。夢見さんは無事通過完了。
さて、私はどうしようか。
できれば会いたくない。絡まれそうだから。でも、わざわざ裏口から入るのは、逆に私が怪しまれてしまうだろう。何のつもりなのか、と。しかも、ここから裏口まで行くとなると、余分な時間がかなりかかる。
やはり強行突破しかないか。
別の生徒が通過するタイミングでさりげなく通過すれば何とかなるかもしれないと思い、私は足を踏み出した。
一歩、一歩、進むたび校門と男性が近づく。
肌がじんわり汗ばむ。
何とかなってくれ——祈りも虚しく、男性に立ちはだかられる。
「みーつけた」
「……っ」
「やぁ、久しぶり。覚えてくれているかな」
「貴方……」
「はいっ。これ」
差し出されたのは、赤い薔薇一輪。
綺麗にラッピングされている。
「え」
……これは何が起きた?




